# PART 7 気づかいが報われる人、人に利用されるだけの人 ——「いい人」だけでは絶対に成功できない > 扉の引用: 「善いことをすると必ず罰せられる(正直者はバカをみる)」——クレア・ブース・ルース(編集者、劇作家、米下院議員) > > **収録範囲**: 第3分冊はこの章の**前半のみ**(電子版75%〜77%、分冊45〜50ページ)。ギバーが陥る3つの罠の提示と、「愛想のよさ」がギバー/テイカーとは別軸であることの解体まで。原書の章題は *Chump Change: Overcoming the Doormat Effect*。 ## 中心主張 ギバーが踏みつけられるのは「与えること」そのものが原因ではなく、**信用しすぎること・相手に共感しすぎること・臆病になりすぎること**という3つの罠に陥るからである。加えて、人を見抜く手がかりとして誰もが使う「愛想のよさ」は、その人がギバーかテイカーかとまったく無関係な別個の資質であり、この2つを混同することが、ギバーが食い物にされる最大の構造的理由になっている。同じギバーでも、他者志向になることでこのリスクを回避し克服できる。 ## 実践指針 - **相手がギバーかテイカーかを判断する場面では、愛想のよさを手がかりにするな。** 態度は外側に表れるだけのもので、動機や価値観とは無関係。つっけんどんでも気前よく与える人がいる。 - **初対面の相手を見極める場面では、瞬時の判断(第1感)に頼るな。** 愛想のいい人をつい善人だと思い、冷淡な印象の人を疑ってしまう。この誤りが詐欺・個人情報窃盗の被害を生む。 - **相手の真意を測る場面では、「その人が何を聞いてくるか」に注目せよ。** 「どうすればいいですか」と助言を求めてくるのがギバー、自分の取り組みを延々と話し続けるのがテイカー。 - **人助けの依頼を受ける場面では、断る理由をあらかじめリスト化しておけ。** バウアーは質問してくる人とその態度に注意を払い、断る理由をリストにまとめた。 - **昇進や評価がかかった場面では、「いい人すぎる」と見られるリスクを直視せよ。** 顧客に悪いニュースを伝える、議論の方向性を正す——押しの強さが必要な局面を避け続けると、それ自体がキャリアの障害になる。 - **与える相手を選ぶ場面では、恩返しではなく「恩送り」に設計し直せ。** ゲラーは恩師に返す方法を探すのをやめ、ほかの人のためにチャンスをつくる側に回った。 - **人の役に立ちたい場面では、頼まれ待ちではなく組織に不足している仕組みを自分でつくれ。** ゲラーの知識管理システムは誰から頼まれたわけでもなかったが、彼を組織の中心に据えた。 ## 根拠となる研究・事例 - **リリアン・バウアー**(ハーバード大卒→同大MBA、名門コンサルティング会社のマネジャー): 退職後に会社から再び誘われるほど優秀だったが、「**いい人すぎる**」という噂が広まって期待の新星としての評価が一変し、昇進が6カ月延期、1年後もまだ昇進できなかった。実際の彼女は、美容院開業の資金をどの銀行にも断られた女性と協力して事業計画と財務諸表を強化し融資を実現させ、NPOで数年間、低所得の女性の起業を支援し、コンサル会社では何時間もかけて新入社員を指導していた。**「人の力になりたいのです。自分の一時間を使って、人に十時間を節約させることができるなら、十分、元がとれますし、さらにもう一時間提供してもかまいません」**。だが勤務評定は「押しの強さに欠けていた」「顧客に悪いニュースを伝えたり、顧客の議論の方向性を正さなければならない場合にふさわしい、押しの強さがない」。同僚は「あまりに気前よく自分の時間を割いていたので、お人好しすぎると思われてしまったんです」と語り、パートナー(コンサル企業の最高ランクの役職)への昇進が延び延びになった。 - **ダイアン・バーゲロン、アビー・シップ、ベン・ローゼン、ステイシー・ファースト**の調査: 大手コンサル企業3600人のコンサルタントについて、週に何時間、新入社員を助け後輩を指導し同僚と情報や専門知識を共有したかを1年間記録し、給与・成長の速度・昇進のデータと突き合わせた。**ギバーは3つすべての測定基準で最低**。昇給率はギバーが平均9%(テイカー10.5%、マッチャー11.5%)、管理職に昇進できたのはギバー65%に対しテイカー83%、マッチャー82%だった。※テイカーとマッチャーの数値の対応は縦書き画像でやや判読しづらく、上記は最良の読み取り。バウアー本人の弁は「私に問題があるとすれば、たぶんお人好しなことでしょう。自分のことより他人を優先してしまうので」。 - **ジェーソン・ゲラー**(ニューヨークのデロイト・コンサルティング): 同じギバーでありながら、**弱冠30歳でデロイト社史上もっとも若いパートナーの一人**に(通常12〜15年かかるところ、コーネル大卒業から9年)。コンサルティング業を始めたころ会社にはEメールしかなく、体系化された知識管理プロセスがなかった。誰から頼まれたわけでもなく、自分がすべきだと思ったから、業界や顧客に関する情報を収集・蓄積・検索できるシステムを構築。同僚はこれを「**J・ネット(ジェーソン・ネットワーク)**」と呼び、ゲラーは組織記憶(組織共有情報)のハードディスクとなった。コロンビア大MBA取得中に世話になった恩師にお返しする方法を探していたが、マッチャーなら恩師に返すところ、ギバーの彼は「**人が私のためにわざわざチャンスをつくってくれたから、今度は私がほかの人のために必死でチャンスをつくってあげる番ですよ**」=**恩送り**と考えた。あるアナリスト曰く「ゲラーは信じられないほど忙しいのに、アナリストと定期的にミーティングを開き、その時点で直面している問題を解決する手助けをしてくれるのです」。バウアーとゲラーはどちらもギバーだが出世は正反対で、性別は重要な差異ではない(男女を問わず多くのギバーが同じ罠に陥る)。 - **ピーター・オデット**(オーストラリア人ファイナンシャルアドバイザー): 22歳で金属リサイクル業の顧客を訪問し、競争の激しい会社で保険部門を立ち上げた。週給わずか400ドル(約4万円)の最低賃金。「当時の上司は強欲そのもの」で、ピーターの功績を認めず、いつも自分の手柄にした。週給500ドル(約5万円)への引き上げは最後には承諾されたが、給与システム自体の変更は拒まれた。「あれほど一生懸命働いていたのに、あんなみじめな目にあって、私はすっかり自信を失ってしまいました。怒りで気が狂いそうでした。ギバーが手強いテイカーと仕事をすることになったら、生き延びるのは不可能です」。3年近く勤めたのち独立起業し、最初の年に収入が4倍、5年後には年間収益10万ドルに。しかし今度は**ブラッド**という別のテイカーに食い物にされた。ピーターはブラッドの顧客の問題解決を毎週2日間手伝い、離職まで面倒を見たが、ブラッドは別の会社に移ることが決まると、それを知らせないままピーターに売った顧客を買い戻し、徐々に信頼関係を築いて顧客の多くを盗みとった。ピーターは約1万ドル(約100万円)の損失を被り、一銭も支払われなかった。「**ギバーは、人は誰でも善人だと思う傾向がある**」——最初からブラッドがテイカーだと見抜けていれば防げた。 - **詐欺被害の研究**: アメリカ人は詐欺・個人情報窃盗といった犯罪の被害者になりやすく、たいていはテイカーを信用したことが原因。あるギバーは寛大にも友人の車のローンの連帯保証人になったが、友人はこのギバーの個人情報を悪用してクレジットカードを3枚つくり、5年間で2000ドル(約20万円)以上を使い込んだ。 - **マルコム・グラッドウェル『第1感』(光文社)**: 「瞬時の判断」の多くは驚くほど正確だが、**ギバーとテイカーの見分けにはあてはまらない**。熱血教師や外向的な営業マン、互いに軽蔑し合っている夫婦はひと目で見抜けても、動機は見抜けない。「人はどんな場合でも『瞬時の判断』を誤るといっているわけではない。たいていの人は、瞬時にギバーとテイカーを見分けられると思っているが、実際は当てにならない」。 - **「愛想のよさ(agreeableness)」の50年にわたるリサーチ**: 愛想のよさとは**他人との接し方で外側に表れる表面的な態度**。愛想のいい人は協力的で礼儀正しく見られる傾向があり、無愛想な人は競争心旺盛で批判的、疑い深く挑戦的な印象を与える。行動遺伝学者によれば、愛想のよさの**少なくとも3分の1、ひょっとすると半分以上は遺伝**による。愛想のよさを処理する脳の領域(後帯状皮質など)をMRIでスキャンした研究では差が確認された。**しかし愛想のよさは、その人が自己中心的か他者中心的かとはまったく関係のない別個のものである**。「感じがいいか悪いかは、その人の性格とは無関係」。 - **無愛想なギバー**: **ダニー・シェーダー**(ネットスケープ社のマーケティング、パート1に登場した起業家)——「態度は荒っぽく無作法だが、自分の時間、専門知識、人脈を気前よく与えてくれる」。**故マイク・ホーマー**——「態度はつっけんどんだったが、心は高潔そのものだった」。元従業員は「期待も要求もとてつもなく高い人でしたし、信じられないくらい誠実な人だった。厳しく叱られたことがありましたが、翌日にはケロッとして次にどんな仕事をしたらいいか、私にぴったりな仕事は何か、一緒に考えるのを手伝ってくれたんです」と証言。 - **愛想のいいテイカー(別名ペテン師)**: パート2に出てきた**エンロンのレイ**が典型。「テイカーは如才なく、愛想がいいという印象を与えるが、与えるよりはるかに多くを手に入れようとしていることが多い」。 - **ギバーの防衛策(章後半への橋渡し)**: ギバーはマッチャーやテイカーより、**直感的に相手の真意を見極めることができる**。人の振舞いや考え、気持ちに敏感なので、テイカーの手がかりを見つけやすい。またギバーはふだんから人を信用しやすく、そのせいで他人のさまざまな振舞いを見る機会が多いため、真意を見極めるうえで有利になっている。テイカーに大損させられることもあるが、寛大さが報われたりそれ以上の見返りを手にしたりもする。時間が経つにつれ、ギバーも個人差や愛想のよさと無愛想さのあいだの白黒つけがたい部分に敏感になっていく。バウアーは「**質問してくる人とその態度に注意を払うようになり、断る理由をリストにまとめた**」「一部の人のテイカーとしての振る舞いに気づくようになりました」。ゲラーは「シニアコンサルタントになりたいのですが、どうすればいいですか」と聞いてくる人をギバーと見なし、「自分の予定について延々30分話し続ける」人はテイカーと見なす。 ## キーワード - **ドアマット効果(踏みつけられる人)**: ギバーが与えることで搾取され、成功の階段の最下段に留まってしまう現象。原書の章題 *Overcoming the Doormat Effect* に対応。 - **ギバーの3つの罠**: ①**信用しすぎること** ②**相手に共感しすぎること** ③**臆病になりすぎること**。男女を問わず多くのギバーを悩ませる。 - **愛想のよさ(agreeableness)**: 他人との接し方に外側に表れる態度。少なくとも3分の1は遺伝による。**ギバー/テイカーとはまったく別個の軸**であり、混同するとペテン師に食い物にされる。 - **愛想のいいテイカー(ペテン師)**: 表面的には協力的で如才なく感じがよいが、与えるよりはるかに多くを手に入れようとする人。エンロンのレイが例。 - **無愛想なギバー**: 態度はつっけんどんだが、時間・専門知識・人脈を気前よく与える人。ダニー・シェーダー、マイク・ホーマーが例。「態度は別個のものであり、正反対のものではない」。 - **恩送り(ペイ・イット・フォワード)**: 恩人に直接お返しするのではなく、別の人のためにチャンスをつくること。マッチャーの「恩返し」と対比される、ギバー固有の返し方。ゲラーの異例の昇進を支えた行動原理。 - **J・ネット(ジェーソン・ネットワーク)**: ゲラーが誰にも頼まれず構築した知識管理システム。組織記憶(組織共有情報)のハードディスクとして機能し、彼を組織の中心に据えた。 --- **(part4に続く)** ——ギバーがこうしたリスクを回避・克服する具体的な方法(見返りの求め方、テイカー相手の対応の切り替え、他者志向への転換)は、電子版78%地点から始まる第4分冊で展開される。