# PART 4 荒野で"ダイヤモンド"を見つける法——「与える人」の才能③ 可能性を掘り出し、精鋭たちを育てる
> 「人を現状から判断して対応すると、実際より悪くしてしまうことがある。しかし、その人がもつ潜在能力にふさわしい対応をしてやれば、能力を発揮できるようになるものなのだ」——ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(章扉引用)
(※ この章は part2 の最終ページで途中終了。「人間は"才能"で決まるのか」節の途中、スチュ・インマンのスカウト法の記述の最中で切れている。**part3に続く**)
**中心主張**: ギバーは「才能の片鱗が見えるまで待つ」のではなく、最初から全員を「大きな可能性を秘めた人」として扱う。この楽観的な見方が自己成就予言を起こし、実際に才能を開花させる。才能は生まれつきではなく、「やる気」と「根性」が投資を呼び込んだ結果として生まれる。そしてギバーは、投資が失敗したときもエゴではなくチームを守るため、立場固定に陥りにくい。
## 実践指針
- **部下や生徒に接する場面では、可能性が見えてから投資するのではなく、全員を「大きな可能性を秘めた人」として扱え**。原石は"見つける"のではなく"磨く"もの。他人には見えない可能性を見出そうとするから、ギバーだけが原石を生み出せる。
- **人材を伸ばしたい場面では、期待を明示的に伝えよ**。マネジャーが無作為に選んだ従業員を「ブルーマー」に指定するだけで、その従業員は才能を開花させる。マクナット「支援の手を差し伸べ、可能性を信じていることを常日頃から伝えれば、やる気が出ていっそう努力するようになり、その可能性を発揮できるようになるのです」。
- **才能を見抜こうとする場面では、知力や適性ではなく「やる気」と「根性」を見よ**。一定以上の能力をもった候補者がたくさんいるとき、粘り強さこそが到達点を予測する最大の要因になる。
- **相手の関心を引きたい場面では、相手の住んでいる世界を知れ**。スケンダーはラッパーのポスターを研究室に貼り、毎日一曲は新しい曲を聴き、講義前に生徒の好みの音楽を四曲かけた。
- **失敗した投資を抱えている場面では、「もう一手さえすれば」と考えるな**。立場固定(サンクコスト効果)の最大要因は損失そのものではなく「**エゴの防御**」である。
- **自分が平均以下だと知らされた場面では、権限を他人に委ねよ**。テイカーは同じ状況で権限委譲の頻度を15パーセントに下げるが、ギバーは30パーセント増やす。この差が失敗の傷を浅くする。
- **批判を受けた場面では、自分への評価ではなく決定が同僚と会社に与える影響を見よ**。それが柔軟で創造的な判断を可能にする。
- **人を評価する場面では、試合前のウォーミングアップや教室外での様子など「本人が評価されていないと思っている瞬間」を観察せよ**。インマンは選手のコーチ・家族・友人・教師と面談し、やる気や性格を尋ねた。
## 根拠となる研究・事例
- **レジー・ラブ(オバマ大統領の側近)**: デューク大でアメリカンフットボールとバスケットボールの両方で主将を務めたが、NFLの適性テストで不合格。卒業後、進路を変えて米国連邦議会で実習生になり、オバマ上院議員オフィスの郵便室係から昇進。一日十八時間働き、オバマに届く手紙にすべて返事を書いた。「ほとんど寝ずに、あれだけの責務をさばく能力は、見ていて感動した」(オバマ)。「誰に対してもとても親切なことで知られていた」。一年も経たないうちに、弱冠26歳で個人秘書に。地球35周分以上を飛行機で移動した。
- **ベス・トレインハム**: ノースカロライナ州出身、数学が大の苦手で、フルタイムの仕事をしながら三人の子どもの世話をこなし、公認会計士試験に一度不合格。二度目は出産のため会場を後にした。だが最終的に**州で最高得点**をとり、さらに全国の受験者のなかから**エライジャ・ワット・セルズ賞(全国上位10名)**に選ばれた。現在はNC州リサーチ・トライアングルで影響力あるファイナンシャルリーダー25人・ビジネスウーマン25人に選ばれている。
- **C・J・スケンダー(ノースカロライナ大+デューク大の会計学教授)**: ラブとトレインハム双方の恩師。白髪頭の58歳、蝶ネクタイがトレードマーク。**ライバル同士のデューク大とUNC両校で同時に教える許可**を得ている稀有な人物。UNCから14個、デューク大から6個の教育関連の賞(うち5個はNC州初)。延べ600講座、3万5000人以上の生徒。生徒の人生に何百時間も投資し、推薦状を三回も失敗したあと書き直したこともある。教え子のデビッド・モルツ(グーグル勤務)「先生は出会ったありとあらゆる生徒(と人)をできるかぎり助けてあげるんです」。
- **ダブ・イーデン(イスラエル国防軍IDF、1980年代)**: 訓練兵の適性検査スコア・基礎訓練の評価・以前の指揮官の評定を集め、**無作為に選んだ訓練兵を「高い潜在能力をもつ」と小隊長に告げた**。十一週間後、その訓練兵の武器操作の評価は9パーセント、専門知識テストでは10パーセント高かった。小隊長が期待を抱いたことで、訓練兵は自信と能力を高め、より高い功績を達成できた。「小隊長がミスをしても、訓練兵はそれを能力が低いせいだとは思わず、学びのいい機会だととらえた」。
- **ローゼンタール(ハーバード大)とジェイコブソン(サンフランシスコの小学校校長)のピグマリオン実験**: 幼稚園から小学5年生まで、のべ18クラスに知能検査を実施。**無作為に選んだ約20パーセントの生徒を「ブルーマー(才能を開花させる人)」だと教師に告げた**。一年後、ブルーマーはIQが平均12ポイント上がり、クラスメート(8ポイント)を約4ポイント上回った。二学年では10ポイント上回り、その後の二年間で差はさらに広がった。**自己成就予言**——教師が可能性を信じたために、期待どおりの結果が実現した。教師は温かく接し、意欲をそそる宿題を出し、より多くのアドバイスをした。
- **ブライアン・マクナット(マネジメント研究者)**: 銀行業から小売業、製造業、心理療法法にいたるまで17種類・約3000人の従業員を対象に調査を実施。**マネジャーが無作為に従業員をブルーマーに指定すると、その従業員は才能を開花させた**。
- **マリー・アルクーリ**: 1985年のスケンダーの生徒。最初の公認会計士試験は不合格。スケンダーからの手紙「ご主人、ご家族、お友だちがあなたを愛しているのは、あなたが素晴らしい女性だからです。そのことを忘れないでください。マリー、きっと合格できますよ。**人間は成功で決まるのではありません。努力で決まるのです**」。三週間後、マクナットからも激励の手紙。二科目合格し、二年後に公認会計士資格を取得。現在は二店のレクサス車特約店のオーナー。「私のために一生懸命してくれているのがわかっていましたから、ガッカリさせたくなかったのです」。
- **マクナットの会計検査官実験**: 四大会計事務所の一つに入社した72名の新米会計検査官のうち、半数を無作為に選び「あなたは成功する可能性が高い」と事前に伝えた。すると、そのメッセージを受けとった検査官は、マクナットと会ってもいなくても、**手紙を受けとっただけで効果があった**。知能検査のスコアと大学の成績を考慮して調整したあとも結果は変わらなかった。
- **レイモンド・カテルの「知力投資説」**: 知力や知識基盤を発達させるかより、**人が時間とエネルギーを投資させる「やる気」**こそが才能をいかに発揮させるかを決める。才能を伸ばすきっかけになるのは「やる気」であることが説得力のある証拠で示されている。
- **ベンジャミン・ブルーム(1980年代)の一流ピアニスト調査**: 世界一流の音楽家・科学者・アスリートを対象に、主要な国際コンクールで最終選考に残ったピアニスト21人にインタビュー。**一流のピアニストのほとんどが、最初は「家族や近所の子どもに比べれば才能がある」程度**で、地元や地域、全国レベルで目立っていたわけでも、コンクールに入賞したこともなかった。最初のピアノ教師は世界最高の音楽家ではなく、近所に住む教師だった。ギバーの教師(「思いやりのある、親切で、寛容な先生」)が音楽への関心と楽しさを教えてくれたので、レッスンが待ち遠しく、猛練習をするようになった。**世界ランキング上位18人のテニスプレーヤーも同じパターン**——「最初のコーチは優秀なコーチというわけではなかったが、練習をがんばろうという気にさせてくれた」。
- **アンダース・エリクソン/マルコム・グラッドウェル『天才! 成功する人々の法則』**: 専門的技術を習得するには延べ一万時間の練習が必要。
- **アンジェラ・ダックワースの「根性(グリット)」**: 長期的な目標に向かって熱意をもって根気強くとり組むこと。**知力や適性以上に、根性のある人びとが、関心・集中力・やる気によって、より高い業績を達成する**。
- **トム・コルディッツ(米陸軍士官学校、行動科学とリーダーシップ論)**: 陸軍士官が主要な管理職に選抜される確率は普通12パーセントだが、**コルディッツに十二年間学んだ士官は75パーセント**という高い確率で選抜されている。
- **ジョージ・アンダーズ『The Rare Find(隠れた才能を探せ!)』**: 「一定以上の能力をもった候補者がたくさんいたら、粘り強さは、その人がどこまで可能性を発揮できるかを予測する大きな要因になる」。
- **スチュ・インマン(ポートランド・トレイルブレイザーズ選手人事部長)**: **NBA史上最悪のドラフト指名を二度**。1972年ラルー・マーティンを1位指名(4シーズンで一試合平均5得点4リバウンド、史上最高のドラフト失敗)——二位指名のボブ・マカドゥーは得点王3回・MVP、五位はジュリアス・アービング(ドクター・J)。1984年ドラフトではサム・ボウイを2位指名し、**マイケル・ジョーダン(3位)**を逃した。ジョン・ストックトン(16位)、チャールズ・バークリー(5位)も逃した。それでもインマンはギバーとして広く知られる——サンノゼ州立大でトミー・スミス(1968年メキシコ五輪200m金メダリスト)をバスケットボールチームに迎え、「才能がなくても、やる気のある選手には門戸を開いていた」。「どんなレベルであれ、またどんな分野であれ、教えることは最高にやりがいのあるものだ」。
- **バリー・ストーとハー・ホアン(カリフォルニア大バークレー校)の立場固定研究**: 1980〜86年のNBAドラフト1・2巡目で指名された348人あまりの選手全員のデータを収集。得点・リバウンド・ブロック・アシスト・スティール・フィールドゴール率などで測定。結果、**ドラフト順位が高い選手ほど、成績が振るわなくても解雇されず、出場機会を与えられ、トレードを拒まれた**。第二シーズンでは平均22分以上、第五シーズンでも平均11分以上プレーし、第五シーズンまでにトレードされる確率が3パーセント低かった。**立場固定(サンクコスト効果)**の典型例。
- **立場固定の三要因**: ①後悔の予期(「もう一度チャンスを与えなかったことを将来後悔する」)②計画の完了(「この投資を完了できる」)③**エゴの防御**(「この投資を成功させることができれば、私が正しかったことを認めさせられる」)。**ミシガン州立大の166の調査分析では、エゴの防御が最も強力な要因**だった。
- **ヘンリー・ムーン、ブルース・メグリーノ、オードリー・コースガードの研究**: **ギバーは同僚と会社を守ることを第一に考えるので、進んで失敗を認め、柔軟に意思決定をしようとする**。テイカーは自分中心に考えるためエゴを守ろうとし、決断が歪む。**ロンドン・ビジネス・スクールの調査**では、360人の被験者にギバーかテイカーかを判断するアンケートを実施し、失敗した投資(500万ドルを投じて18カ月とり組み、50パーセント完了、しかし競合他社はもっとよい飛行機を手に入れていた)への追加投資を尋ねた。**テイカーはギバーより100万ドル多く投じた**。
- **コースガード、メグリーノ、スコット・レスターの権限委譲実験**: 参加者の半分は「自分の仕事ぶりが平均以上」、半分は「平均以下」と教えられ、10の決断を他人に委ねるかを調査。**テイカーは自分が平均以下と知らされると、権限を委ねる頻度がわずか15パーセントに下がり**、忠告を受け入れる気になれず当初の選択に従った(プライドを守るため)。**ギバーは平均以下と知らされても、他人に権限を委ねる頻度が30パーセント増えた**。
- **インマンの立場固定と、そこからの回復**: ボウイをドラフトしてから二年後、インマンはブレイザーズを去った。マーティンについては四シーズン保持し、立場固定を正当化し続けた。だが二回目のシーズンぶりに振るわなかったので、**ブレイザーズはマーティンをもっと試合に出して立場固定に陥ることは避け**、出場機会を減らし、一試合当たり11分以下にした。1974年、二度目の大失敗のあと、ブレイザーズは再びドラフト1位指名権を得て**ビル・ウォルトン(UCLA出身)**を指名。1977年、ウォルトンを先発センターに起用してNBA優勝、ウォルトンはファイナルMVPに選ばれた。監督ジャック・ラムジーによれば、インマンは**「一度も世間の注目を集めたことはなく、この優勝チームを編成したのは自分だと自慢することもけっしてなかった」**。**優勝チームの得点者上位6名のうち半分が、インマンに2巡目か3巡目でドラフトされた選手**だった。
- **インマンのスカウト法(=スケンダーそっくりのやり方)**: 1970年代、ほとんどのバスケットボールチームはスピード・体力・反射神経・敏しょう性・跳躍力といった身体能力を重視していた。しかしインマンは**選手のメンタルにも注目すべきだと考えた**——プレーを観察するのに加え、試合前のウォーミングアップ中に選手をじっくり観察し、選手を一人の人間として理解しようとし、コーチ・家族・友人・教師と面談し、やる気や性格について尋ねた。記者トンプソン「インマンは、関心のある選手全員の詳細で完全な情報を欲しがった」「インマンがダイヤモンドの原石をうまく見つけることができたのは、時代を先どりしていたおかげでしょう」。記者ドウィン「彼は可能性を見抜くことにかけては、多くの人から『リーグ最高のスカウト』と思われていた」「過小評価されている選手を発掘することで有名だった」。1970年、地元ファンにバスケット熱を盛り上げるPR活動として公開適性テストを実施し、ほかのチームが見逃した選手を探した。1975年、ドラフト2巡目25位で**ボブ・グロス**というほとんど無名の選手を指名——シアトルの大学では一試合平均6.5得点だったが、ロングビーチ州立大とミシガン州立大の試合を観戦し、速攻でブロックする姿に興味をそそられた。グロスは3年生から4年生にかけて平均得点を倍以上(一試合当たり16得点以上)に伸ばした。
## キーワード
- **原石は"見つける"のではなく"磨く"**: ギバーは可能性の片鱗が見え隠れするまで待たない。人をみな「大きな可能性を秘めた人」と見る時点で、すでにリーダーやメンターの役割を果たしている。
- **ブルーマー(bloomer/才能を開花させる人)**: 潜在能力が高いと目される人物。実際には無作為に選ばれた人でも、そう指定されるだけで才能を開花させる。
- **自己成就予言**: 他人から期待されると、それに沿った行動を伸ばし続け、期待どおりの結果が実現すること。ローゼンタールのピグマリオン実験、イーデンのIDF実験が代表例。
- **知力投資説(レイモンド・カテル)**: 知力そのものより、人が時間とエネルギーを投資させる「やる気」が才能の発揮を決めるという説。
- **根性(グリット、アンジェラ・ダックワース)**: 長期的な目標に向かって熱意をもって根気強くとり組むこと。知力や適性以上に業績を予測する。
- **立場固定(サンクコスト効果/エスカレーション・オブ・コミットメント)**: 失敗した行動方針を正当化するために、過去に行なった投資にこだわりさらに投資を増やすこと。三要因は後悔の予期・計画の完了・エゴの防御で、エゴの防御が最も強力。
- **エゴの防御**: 「この投資を成功させれば自分が正しかったと認めさせられる」という動機。テイカーが立場固定に陥る最大の理由。