# 第8章 自分を育てるセルフ働き方改革③ 会社からの評価をどう受け止めればいいのか? **中心主張**: 完璧な人事評価制度はこの世に存在せず、全員が100%納得できる評価制度の設計は原理的に不可能である。ならば評価に不満を溜めて「ダークサイド」に堕ちるのではなく、社内の他人との相対比較をやめ、生涯所得という長い「線」で自分の仕事に集中したほうがいい。不満が生じたら「自分が変わる」「自分で動く」「辞める」の3つしか解決手段はない。 ## 実践指針 - 評価に不満を持ったら、社内の誰かとの相対比較をやめる。「その人」の月給が3万円下がっても自分の月給は3万円上がらない。相対比較には1ミクロンの意味もない。 - 評価の妥当性を測りたい場面では、社内ではなく社外の人と比較する。自分の市場価値はそこにしか現れない。 - 中途入社の人が自分より給料が高いと知った場面では、それはその人の過去の人生の蓄積が「点」として評価されているだけだと理解する。キャリアと評価はもっと長い「線」で見る。 - 今期の評価結果は生涯所得を最大化するための単なる手段だと位置づける。手段にこだわりすぎてネガティブなオーラを出すと、かえって昇給のチャンスが逃げていくというパラドックスが起きる。 - 会社や上司の悪口で盛り上がるグループには絶対に入らない。入った時点で一巻の終わり。会社の目は節穴ではなく、誰もそういう人に重要な仕事も昇進も与えない。 - 不満でモヤモヤしている場面では「悩む」のをやめて「考える」に切り替える。「何が不満なのか?」「なぜ不満なのか?」「では、どうするか?」の3問を自分に問う。答えは必ず「自分が変わる」「自分で動く」「辞める」の3択に収束する。 - 「自分は変わるつもりはない、この会社のために動く価値もない」なら、ダークサイドに堕ちるまでもなく辞めればよい。「会社や仲間は好きだ」なら、自分が変わるか改善のために動くしかない。それ以外の選択肢はない。 - 辞めるときは逃げるように辞めない(ブラック企業・ハラスメントの場合は例外で、一刻も早く逃げる)。リセットボタンを押すような辞め方はクセになる。 - 評価に不満を持っても、過度に憤らない・根に持たない・グチグチ言わない。転職時のリファレンスチェックにも効いてくる。 ## 根拠となる考え方・事例 - **人は2〜3割増しで自己評価する**: 著者自身も若い頃は自己評価が会社評価より2〜3割高く「俺はこんなにやっているのに、あいつも会社も何もわかってない!辞めてやる!」という状態だった。自分で会社を作らない限り、会社員は一生誰かに評価されつづける宿命にある。 - **透明性の限界**: 全社員の給与をガラス張りにした会社はあったが、成功したという話も追随の動きもない。隣の部署のAさんが創出している価値を、違う部署のBさんが正しく推し量ることは不可能だから。結果(給与金額)の開示は「あいつは高すぎる」「私は低すぎる」という幼稚なグチしか生まない。プロセス(評価方法)の透明化は大切だが、結果の透明化はデメリットしかない。 - **定量評価も結局は定性評価**: 営業職は売上で定量化できるが経理職はできない(「1時間で何枚の請求書をさばいたか」は無意味)。全社貢献活動や育成貢献は5段階評価や点数化に頼らざるを得ず、その点数は結局、上長の主観で1〜5点の範囲に決まる。100%客観的な定量評価はほぼ存在しない。 - **評価を細分化するほど不満は増える**: 戦後の日本的経営(終身雇用・年功序列・企業別労働組合)を支えた職能給・職務給・各種手当の複合賃金システムは、細かくするほど「なぜS3ではなくS2なのか」という不公平感を生んだ。何をどうやっても不満は絶えない。 - **個人成果主義の弊害**: 成果主義人事はそもそも肥大化した人件費を抑制する目的で導入が進んだもので、会社全体の給与総額は減る(給与が増える人より減る人が増えた)。著者が創業前に働いた5社のうち、個人成果主義を最も徹底していた会社は個人・部署・全社の利益目標達成率の3階建てで評価していたが、昇給原資は1つなので「誰かの取り分が増えれば誰かの取り分が減る」相対評価になる。結果、自分の相対評価を上げるために同僚や後輩へ情報提供やナレッジ共有をしなくなる——典型的な「囚人のジレンマ」。「自分さえ良ければ良い」「誰かが困っていても助けない」という個人至上主義の文化が形成される。 - **インセンティブの2つの意味**: 「情報的意味」=努力して成果を残せば翌年の年俸が上がる(プロスポーツ選手型、内発的動機)。「統制的意味」=やりたくないことでも○○円あげるからがんばれ(外発的・強制的)。「1件売ったら○○円」は統制的意味合いが強く健全ではなく、長続きしない。 - **「個人の成果」が測りにくい2つの理由**: ①仕事はプロデューサー、PM、コンサルタント、プランナー、ディレクター、リサーチャー、運用担当、広告担当などスペシャリストのチームで進むため、成果は誰か1人のものではない ②所属部署による差(売れ筋サービスのA事業部とコモディティ化したB事業部では成果の出やすさが違う/成果主義を徹底すると誰も新規事業をやりたがらなくなる)。 - **著者のファイナルアンサー**(社会人28年・経営16年時点): 「良いときはみんなで喜ぶ、ダメだったときはみんなで反省する」という集団主義的な評価思想。個人の成果は学歴・年齢・性別・職歴・社歴に関係なく評価し抜擢・昇給させるが、その成果とはチーム・組織・全社にポジティブフィードバックを与えたか、会社のパーパスを具現化したかであり、個人の目標達成率○%ではない。賞与配分も部署間の傾斜はほとんどつけない。 - 「組織は戦略に従う」(アンゾフ)と同様に「評価思想は経営方針や作りたい企業文化に従う」。人事評価システムは「どんな行動や成果を称賛するのか」というコアバリューを写す鏡であり、「誰をバスに乗せるのか/誰に降りてもらうのか」への答えでもある。 - 生涯所得が大きくなっている人は、ほぼ例外なく評価に不満を持っても過度に憤らず、根に持たず、グチグチ言わない。「いつか必ず評価される」という確信があるため会社や上司との関係が修復不能なほど悪化しない。 - 逃げるように辞めた経験は人生の「暗黒の時代」として刻まれる。人生の豊かさや幸福感は結局「人間関係」と「その思い出」による。辛いことがあっても「その会社で働いた時間」を「辛いことが多かったけれど良い思い出もある」ものとして記憶に刻んだほうが、人生トータルの幸福度は上がる。 ## キーワード - **ダークサイドに堕ちる**: 会社や上司へのネガティブ感情を抱え、悪口・噂話・グチで群れる状態。特有の臭いを発し、同じ臭いの人を近づけて勧誘まで始める。居心地が悪くなって辞めても、次の会社で同じことを繰り返す。原因の大半は会社ではなく「その人の思考」にある。 - **不満解消の3択**: 「自分が変わる」「自分で(改善のために)動く」「辞める」。これしかない。 - **悩むと考えるの違い**: 悩むは思考停止のままモヤモヤをループさせること。考えるは「何が/なぜ/では、どうするか」を問うこと。 - **点と線**: 今この瞬間の評価や給与は「点」。キャリアと評価は生涯という「線」で見るべきもの。給料を切り取るなら生涯所得がすべて。 - **金銭的インセンティブの情報的意味/統制的意味**: 前者は内発的動機に基づく成果連動、後者は外発的・強制的な動機づけ。インセンティブは情報的意味の領域でのみ活用すべき。 - **囚人のジレンマ(成果主義下)**: 相対評価では他者を助けるほど自分の評価が下がるため、ナレッジ共有が止まる構造。 - **評価のゴールは「納得感」**: 100%納得できる制度は不可能なので、1人でも多くの社員が納得感を得られる努力(評価思想を伝えるインターナルコミュニケーション+思想に共感する人だけをバスに乗せること)に注力するほうが生産的。 ## work(本文中の設問) - 会社や上司の人事評価に満足しているか。満足していない場合その理由は何か。どうやったら解決できると思うか。 - 「もう、この会社でやってられない!」と思ったことはあるか。その理由は何か。どのようにしたら解決できると思うか。