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# 26章 本物のリーダーシップ
## 中心主張
アナはシェリルに謝罪するが、業績への懸念を伝えないまま会話を終える。それを「責任を取った」と自己正当化しかけた直後、その会話全体が自分の正当化のためだったと気づき、退勤するシェリルを追いかけて本当のことを話す。本物のリーダーシップとは、相手のミスを大目に見ないことと、相手をそのミスだけの存在にしないことの両立であり、率直さは「お互いに対して正直になっても大丈夫だ」と思える関係の上に成り立つ。
## 論の展開
- アナはオフィスに急ぎ、シェリルの予定表を確認する。ルーの「今日中に手当てできるか」を受け、空きがあるとわかると即座に動く——さもなければ「別に話さなくてもいい」と自分をごまかしてしまうと知っているから。
- 会議室での第一の会話。アナはまずプレゼンを具体的に称賛し(見事だった、準備をありがとう、会合のハイライトになり、チームの役に立った)、次に自分の非を認める。「ここに着任してから、それほどあなたの力になってこれたわけではなかった」「参加すべき会合があっても声をかけなかったし、最新情報をきちんと伝えてこなかった。そういうことは間違いなくあなたにとってマイナスだった。本当に、ごめんなさい」。
- シェリルの反応:「あなたを怒らせたのか、それか、あなたはわたしの仕事に不満なのかもしれない、と心配になり始めていたのは事実です」。
- アナは胃が縮むのを感じる。業績について言うべきだと思いながら、口をついて出たのは「とにかく、仕事に戻っていいわ。ありがとう、シェリル」だった。
- 自己正当化の開始。机上の時計の音が大きくなる(カチ、カチ、カチ)。「わたしは責任を取った。責任を取ることが大事なの」「彼女のやる気を維持しなくてはならなかったし、謝ったわけで……」——予想通りのパターンで進む。
- 引き戻し。アナは前日の自分の発言(「あの人たちには本当のわたしはわからないと思います」)と、それへのテオの返し(「君にも、本当の彼らのことはわからないのかもしれない」)を思い出す。さらにトムとケイトの会話、テオとルーの話——「外向きの姿勢を保つということは、他の人びとの短所を見過ごすことと同じではない」「ルーはわたしがタスクをし残したことを決して大目に見なかった。だがそれと同時に、わたしをそのミスだけの存在にもしてしまわなかった」。
- 判断の転換:「今のあの会話は、すべて自分の正当化のためだったんだわ!」。自分の正直さにショック。「わたし自身が大事なように、あの人も大事なのだから、もしわたしがあの人なら、知りたいと思うはず」。
- 追跡。すでに五時過ぎ、シェリルの席は空。三階のフロアを小走りに抜け、階段を一段飛ばしで下り、出入り口のドアノブに手をかけたシェリルを捕まえる。
- 第二の会話(小見出し「責任あるリーダーは率直である」)。アナは伝えていなかった懸念を開示し(やる気がないように見えた、力を出し切っていないように感じられた、本当は伝えるべきだった)、同時に自分の非も重ねる(人に意見を言うのが得意でない、もっとざっくばらんでありたい、なぜ才能を見抜けなかったのか自分でもわからない)。そして問う——「あのプレゼンの前から、自分は百パーセント力を尽くしていると感じていた?」。
- 危険の明示。「上司からこういう質問に正直に答えるのはとても危険だと感じられるでしょうし——あなたは本当のわたしを知らないから。わたしはあなたに、自分を知ってもらおうとしてこなかった。でも、あなたには成功してほしいし、わたしにはその手助けができると思っている。ただしそれにはまず、お互いに対して正直になっても大丈夫だ、と思えないとね」。
- シェリルの開示。合併後、すべてが不確かで燃え尽きたような感じがして、しばらくはレーダーに引っかからないよう低空飛行することにした。それでも誰かが気づいてくれるかどうかは気になり始めていた。二人は初めて声を揃えて笑う。
- 合意形成。アナは「『やる気がなくても物事に積極的に関わろうとしない』バージョンのあなたを抱える余裕はない。でもあのプレゼンをしてくれたシェリルが必要で、その人には喜んで力を貸す」と線を引き、来週チームの求めるものと自分の支援を明確化する時間を取ることで合意する。
- 場面転換:エレベーターからトムが現れ、アナがシェリルに紹介する。シェリルが「では、ようこそザグラム社へ! じゃあ、アナ、また来週!」と去る。
## 実践指針
- 「今日中に手当てできるか」と自問したら、予定表を確認して即座に動け。時間を置くと「別に話さなくてもいい」と自分をごまかす。
- 難しい会話は、相手の具体的な貢献の承認から始めよ(何が良かったか、いつのことか、誰にとって役立ったか)。
- 自分の不作為を具体的に挙げて謝れ——会合に呼ばなかった、最新情報を伝えなかった、その結果相手にとってマイナスだった。
- 謝罪だけで終えた会話を「責任を取った」と評価するな。相手にとって必要な情報(業績への懸念)を渡していなければ、その会話は自分の正当化である。
- 「相手のやる気を維持しなければ」を理由に本当のことを伝えないパターンを検出せよ。
- 判断基準を「もし自分が相手の立場なら、知りたいと思うか」に置け。
- 言い残したことに気づいたら、その日のうちに追いかけて言え。相手が退勤していても追う。
- 懸念を伝えるときは、自分の側の限界も同時に開示せよ(意見を言うのが得意でない、もっとざっくばらんでありたい、なぜ見抜けなかったか自分でもわからない)。
- 相手が正直に答えるのが危険な立場にあることを、こちらから言葉にせよ。「上司にこういう質問に正直に答えるのはとても危険だと感じられるでしょう」。
- 率直さの前提条件を明示せよ——「お互いに対して正直になっても大丈夫だと思えること」。そのために、自分を知ってもらう努力をこちらから始めよ。
- 線引きは、人ではなくバージョンに対して行え。「〜しないバージョンのあなたを抱える余裕はない/〜のあなたが必要で、その人には喜んで力を貸す」。
- 会話は次の行動で閉じよ。チームが何を求めているのか、自分がどう力を貸せるのかをはっきりさせる時間を、日付を決めて取る。
## 根拠となる研究・事例
- **アナの即時行動**:ルーの「今日中に手当てできるかな?」を受けてオフィスに急ぎ、シェリルの予定表を確認。空いているとわかり、「さもなければ自分自身をごまかして、別に話さなくてもいい、ということにしてしまうだろう」と判断して即座に声をかけた。
- **第一の会話(会議室)**:
- 称賛:先週のプレゼンテーションについて「じつに素晴らしいプレゼンだった」「本当に見事だった。頑張って準備してくれて、ありがとう」「あの会合のハイライトになったし、チームにとっても、とても役に立った」 → シェリルは明らかにホッとして「うまくいったと思ってもらえて、嬉しいです」。
- 謝罪:「ここに着任してからというもの、わたしはそれほどあなたの力になってこれたわけではなかった」「参加すべき会合があっても声をかけなかったし、概して最新情報をきちんと伝えてこなかった。そういうことは間違いなく、あなたにとってマイナスだった。本当に、ごめんなさいね」。
- シェリルの反応:「わたしはただ、あなたを怒らせたのか、それか、あなたはわたしの仕事に不満なのかもしれない、と心配になり始めていたのは事実です」。
- 中断:アナは胃のあたりがぎゅっと縮むのを感じ、業績について何か言わねばと思ったが、出たのは「とにかく、仕事に戻っていいわ。ありがとう、シェリル」だった。
- **自己正当化の実況(机上の時計)**:カチ、カチ、カチ。「わたしは、責任を取った。そして責任を取ることが、大事なの」「彼女のやる気を維持しなくてはならなかったし、それに、謝ったわけで……」——「まさに予想通りのパターンで進んだ」。示唆:正当化は謝罪の直後にこそ立ち上がる。
- **引き戻しに使われた過去の言葉**:
- アナ自身の前日の発言「あの人たちには本当のわたしはわからないと思います」 → テオの返し「君にも、本当の彼らのことはわからないのかもしれない」。
- テオとルーの話「外向きの姿勢を保つということは、他の人びとの短所を見過ごすことと同じではない」「ルーはわたしがタスクをし残したことを、決して大目に見なかった。だがそれと同時に、わたしをそのミスだけの存在にもしてしまわなかった」。
- トムとケイトの会話(気詰まりだったが、成功してほしいという意図が伝わったため感謝している)。
- **アナの転換点**:「今のあの会話は、すべて自分の正当化のためだったんだわ!」——自分の正直さにショックを受ける。「わたしは本当の自分にならないといけない。シェリルに本当のことを話さなければ。わたし自身が大事なように、あの人も大事なのだから、知りたいと思うはず」。
- **追跡の描写**:五時過ぎ、シェリルの席は空。三階のフロアの端まで小走り、エレベーターの前を走り抜け、一段飛ばしで階段を下り、建物の出入り口のドアノブに手をかけたシェリルを「シェリル、ちょっと待って!」と呼び止める。シェリルの「いいですよ」という返事には警戒感が滲んでいた。
- **第二の会話(ロビー)**:
- 開示:「あのときわたしはすべてを話さなかった。わたしは人に意見をいったりするのがあまり得意でないんだけれど、もっとざっくばらんでありたい、と思っている。本当のことをいうと、あなたの業績に関しては、いくつかの点で心配していたことをあなたに伝えていなかった」「こちらからは、やる気がないように見えたし、力を出し切っていないように感じられた。本当は伝えるべきだったのに」。
- 反転:「それからあなたはあのプレゼンで真の力を発揮して、だから、あなたには途方もない才能があることがわかった。なぜ自分がそれを見抜けなかったのか、わたしにはわからない」。
- 問い:「あのプレゼンの前から、自分は百パーセント力を尽くしている、と感じていた?」。
- 安全の明示:「こんなのが変で奇妙だ、っていうことはわかっているの。普段わたしはこんなふうに人と話したりしないし。それに、上司からこういう質問に正直に答えるのはとても危険だ、と感じられるでしょうし——あなたは本当のわたしを知らないから。わたしはあなたに、自分を知ってもらおうとしてこなかった。でも、あなたには成功してほしいし、わたしにはその手助けができると思っている。ただしそれにはまず、お互いに対して正直になっても大丈夫だ、と思えないとね」。
- シェリルの応答:「おっしゃるとおりですね」——ようやく肩の力を抜き「なんか、とっても変!」。二人が声を揃えて笑ったのは、これが初めてだった。
- シェリルの真相:合併後は心配だった。すべてが不確かで、なんだか燃え尽きたような感じがして、しばらくはレーダーに引っかからないように低空飛行をすることにした。それでも「誰かが気づいてくれるかどうか」は気になり始めていた。
- 線引き:「『やる気がなくても物事に積極的に関わろうとしない』バージョンのあなたをチームに抱えるだけの余裕は、わたしたちにはありません。でも、別バージョンのあなたにそれが必要。あのプレゼンをしてくれたようなシェリルが必要なの。彼女こそが、わたしたちのチームに必要な人物。そしてわたしはその人に、喜んで力を貸す」。
- 合意:シェリル「実際のところ、考えただけでワクワクします」 → アナ「じゃあ、来週のどこかで時間をとって、前進しつつあるあなたにわがチームが何を求めているのか、わたしがどう力を貸せるのかを、はっきりさせましょう」。
- **アナの内省(テオのルー評との対応)**:「意地悪でありたくない、衝突を好まない、というのはプラスの動機に見える。でもリーダーには、他の人たちが向上する手助けをする義務がある」——23章でルーが言ったことを、アナが自分の言葉として反芻している。
- **場面転換**:エレベーターの扉が開きトムがロビーに現れる。アナが「シェリル、あなたトム・コーラムとは会ったことがある?」と紹介し、シェリルは「新しい方ですよね。開発部の」「では、ようこそザグラム社へ! じゃあ、アナ、また来週!」と去る(トムのフルネームがトム・コーラムであることがここで明かされる)。
## キーワード
- **責任あるリーダーは率直である**(章内小見出し):謝罪だけで終わらせず、相手にとって必要な情報を渡すことまで含めた責任。
- **謝罪のあとの自己正当化**:「責任を取った」「相手のやる気を維持しなければ」という形で、言い残しを正当化する型。
- **短所を見過ごさない外向きの姿勢**:ミスを大目に見ないことと、相手をそのミスだけの存在にしないことの両立。
- **正直になっても大丈夫だという前提**:率直な対話が成立するための条件。上司側が先に自分を知ってもらう努力をする必要がある。
- **低空飛行**:不確実な組織状況で、目立たないよう関与を最小化する自己防衛の振る舞い(シェリルの言葉)。