<!-- pages: part2 29-30 --> # 25章 自分が変われば相手も変わる ## 中心主張 共謀サイクルには、どちらの側からでも変えられるポイントがある。相手が変わるのを待たなければ相手を"人"として見られない、というわけではない——こちらから違う形を提案し、相手を"物"として見ず責めもしない自分としてそこにあれば、全体の力学が変わる可能性が生まれる。組織の側は、報告のあり方・報酬・方針までを「人びとが他の人びとに思いを巡らす助けになるように」設計するが、変化そのものは本人から生まれるしかない。 ## 論の展開 - アナが驚く。「こんなふうに話し合えるなんて、昨日は思いもしなかった。会話を試みても、どうせ事態は悪くなるだけだと思っていたのに」。テオは「二人ともお互いをより的確に、はっきり見ようと努めてきたから、共謀から抜け出すことができた」と答える。 - ケイトが部屋に入ってきて共謀図を見る。トムが「類い稀なるリーダーシップ研修でした」と締めくくり、ルーは「たいへんよいスタートが切れた」と応じつつ、二日間の研修は「単なる訓練じゃない、受からなければならない試験など無い、ここから何かよい変化が生まれるかどうかはこれらの概念に息が吹き込まれるかどうかにかかっている」と釘を刺す。 - ケイトが自己欺瞞の厄介さを一文にする。「あなたは問題を抱えているけれど、あなたにはそのことがわかっていない。自分が問題を抱えていると考えることに、あなた自身が抵抗している。この事実こそが、問題があるという証なの」。 - トムが「他の人に伝えるにはどうするか、夫や家族とも話したい」と問い、テオが組織の設計を説明する(小見出し「成功する組織の秘密」)。 - 組織の答え:ザグラム社は同じ研修を形を変えてリーダーだけでなく従業員全員に提供している。以前は「上を変えれば下も変わる」式のトリクルダウン・アプローチだったが、文化を変えて維持するには、強力なリーダーの統率力だけでなく社内の広い範囲での考え方のシフトが不可欠だとわかったため。報告のあり方・報酬をはじめとするインセンティブ構造・社の方針までが、人びとが他の人びとに思いを巡らす助けになるよう作られている。 - ただし処方できない要素が残る。「煎じ詰めればありとあらゆる事が、個々人がその周囲の人びとを見て応えるのを後押しするということになる。変化は君たち自身から生まれなければならず、それには少しばかり練習が必要になる」。 - 伝える側の落とし穴:ルーが「自分が学んだことを分かち合う際には、自分が『教え』ようとしてしまう可能性があること、そしてそれがまた、新たな言葉を使って彼らを責める手段になりかねないことを、くれぐれも忘れないように」と警告する。 - 関係の非対称性:ケイトが「他の人たちに変化を強いることはできないし、あらゆる関係がまったく対等というわけでもない。力の差は、存在するから」と補足する。ルーはそれを認めたうえで「それでもなお、わたし自身は他の人との一つ一つのやりとりにおいて、その一部になっている」と、変えられるポイントの存在を主張する。 - 実例としてルーと息子コリーの回復が語られる。手紙を書き続け、返事がなくても手をさしのべ続け、やがて息子が心を開いた。 - 結び:ルーが「誰もが箱に入ることなく思考を外向きにしていられれば、敏感でいられて、互いをわかり合うことができて、達成不可能なことはほとんどなくなる。これがザグラム社の成功の裏にある大きな秘密なんだ。だから、誰にもいっちゃあいけないよ」とウィンクする。 ## 実践指針 - 対立関係を変えたいなら、相手が変わるのを待つな。共謀サイクルにはどちらの側からでも変えられるポイントが複数ある。 - 自分の側からできることは「違う形を提案すること」——やりとりのなかで、相手を"物"として見ず責めもしない自分としてそこにあること。それだけで全体の力学が変わる可能性が生まれる。 - 学んだことを他人に伝えるときは、「教える」姿勢に転じていないか監視せよ。新しい語彙は、相手を責める新しい手段になりやすい。 - 相手が話を受け付けない状況では、対話にこだわらず別の経路を使え(手紙など)。返事が来なくても続けよ——手をさしのべているほうが、怒ったり責めたりするよりずっと気が楽である。 - 手紙や声かけの内容は、謝罪・共有した良い記憶・相手の経験を尋ねる問いで構成せよ。「相手を的確に見られていたら、きっとこう語りかけただろう」という基準で書け。 - 文化を変えたいなら、リーダー層だけの研修(トリクルダウン)で済ませるな。従業員全員に届く形にし、社内の広い範囲での考え方のシフトを狙え。 - 制度設計を点検せよ。報告のあり方・報酬などのインセンティブ構造・社の方針が、人びとが他の人びとに思いを巡らす助けになっているか。 - 制度で処方できない部分があると認めよ。変化は本人から生まれるしかなく、練習が要る。 - 力の差がある関係(上司—部下、親—子)では、対等を装うな。差があることを認めたうえで、自分がやりとりの一部であることに集中せよ。 ## 根拠となる研究・事例 - **アナの驚き**:「どうしてこんなにすらすらとやり取りができたのかしら。こんなふうに話し合えるなんて、昨日は思いもしなかった。確かに会話を試みることはできるかもしれないけれど、どうせ事態は悪くなるだけだと思っていたのに」 → テオ「二人とも、賞賛に値するだけの努力をしてきた。お互いをより的確に、はっきり見ようと努めてきた。だから、共謀から抜け出すことができた」。 - **アナへの評価**:トム「アナが発する問いには本当に感心しました。じつに、洞察に満ちていた」/「君は、じつに鋭い。なぜ君が営業部のトップなのか、わたしたちにもわかる気がする」。ケイトが部屋に入り、ルーをハグしながら共謀図を見て「あらまあ、みなさん、ずいぶん忙しかったのねえ!」。 - **ケイトの自己欺瞞の定式**:「あなたは問題を抱えているけれど、あなたにはそのことがわかっていない。自分が問題を抱えていると考えることに、あなた自身が抵抗している。この事実こそが、問題があるという証なの」 → 抵抗そのものが症状であるという、23章のルーの体験と同じ論点の言い切り。 - **ザグラム社の設計(テオ)**:①同じ研修を少し形を変えて、リーダーだけでなく従業員全員に提供 ②以前は「上を変えれば下も変わる」式のトリクルダウン・アプローチを取っていたが、文化を変えて維持するには明確な参加意識と強力なリーダーの統率力に加えて、社内の広い範囲での考え方のシフトが不可欠だとわかった ③報告のあり方、報酬をはじめとするインセンティブ構造、社の方針までが、人びとが他の人びとに思いを巡らす助けになるように作られている。 - **アナの応用案**:「うちのチームでも、ぜひそういったことを推し進めたい。営業部と開発部が合同で何かできるかもしれません」 → トム「それができたら、状況は根本から変わるだろうなあ」。 - **ルーの警告(伝え方)**:「君たちがここで学んできたことを他の人びとが理解できるように後押しするというのは、重要なことだ。でも、学んだことを実践しながら生きていくことのほうが、さらに重要だ。自分が学んだことを分かち合う際には、自分が『教え』ようとしてしまう可能性があるということ、そしてそれがまた、新たな言葉を使って彼らを責める手段になりかねないということを、くれぐれも忘れないように」。 - **テオの関係論**:「わたしたちは皆、関係のなかで生きている。他者との関係における自分が、自分なんだ。そして彼らもまた、わたしたちとの関係における彼ら自身なんだ」。 - **ケイトの補足**:「他の人たちに変化を強いることができるわけではない。それに、あらゆる関係がまったく対等というわけでもないの。力の差は、存在するから」。 - **ルーと息子コリーの回復**: - 状況:息子が治療を受けている間に、ルーははじめて本当の意味で息子を"人"として見るようになった → 話をしたいと思ったが叶わなかった → 手紙を書き始めた。 - 手紙の内容:二人の楽しい思い出を認め、息子がどのような経験をしてきたのかを尋ね、ひどい扱いをしたことを謝った。「相手を的確に見られていたら、きっとこんなふうに語りかけただろう」という基準で書いた。 - 経過:初めのうち返事は来なかった。それでも「そうやってこちらから手をさしのべているうちが、怒ったり責めたりするよりずっと気が楽だった」。何週間も経つうちに、息子はゆっくりと心を開き始めた。 - 結果:そこに見出したのは「それまでまったく知らなかった少年、洞察と希望に満ちながらも悪戦苦闘している少年」だった。「ついに息子はわたしにとって、本当の一人の人間になった。わたしはそれまでその子を見過ごし、自分にはわかっていると思い込んでいた。わたしたちの関係が変わったのは、二人がともに再び互いを見るやり方を見出したからだった」。 - 示唆:一方の側から始めた働きかけが、時間をかけて双方の見方を変えた=共謀サイクルの変更ポイントの実証。 - **ケイトのアナへの指摘**:「あなたはもう、経験していると思うけれど。あなたとトムの間柄は、昨日の朝とずいぶん違っているようだもの」。 - **テオの動機**:「わたしの仕事の一番美味しいところは、関係が好転するのを目の当たりにできることだ」。 - **ルーの結び**:「君たち自身が自己欺瞞に陥らないということが、君が率いている人びとにとってどんな意味を持っているのか。なぜなら、誰もが箱に入ることなく思考を外向きにしていられれば、敏感でいられて、互いをわかり合うことができて、達成不可能なことはほとんどなくなるから。これが、ザグラム社の成功の裏にある大きな秘密なんだ。だから、誰にもいっちゃあいけないよ」(ウィンク)。 ## キーワード - **共謀サイクルの変更ポイント**:どちらの側からでもサイクルを変えられる箇所。相手の変化を待つ必要はない。 - **トリクルダウン・アプローチ**:「上を変えれば下も変わる」式の変革手法。ザグラム社は不十分と判断し、全従業員への提供と広範な考え方のシフトに切り替えた。 - **処方できない要素**:制度や研修では代替できない、個々人が周囲を見て応えるという実践部分。練習を要する。 - **教えようとする罠**:学んだことを分かち合う際に、新しい語彙が相手を責める新手段になってしまうこと。 - **力の差**:あらゆる関係が対等ではないという前提。それでも自分はやりとりの一部である。