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# 24章 箱の外で相手を的確に見る
## 中心主張
リーダーシップの処方の大半が失敗するのは、焦点が誤っているからである——振る舞いを変えることにばかり集中し、思考や態度は眼中にない。自己欺瞞と共謀に関しては「診断自体がほぼ治療」であり、箱から出て相手を的確に見ることができれば、何をなすべきかは明確になる。そして箱の外で行われた行動だけが、実際に変化を生む。
## 論の展開
- トムがルーに「どうやって方向転換したのか、事態を改善するために何をしたのか」と尋ねる。ルーの答えは意外なもので、「実際、問題を改善しようとする試みは、たいていうまくいかない」。
- 失敗の理由:試みは誤ったところに焦点を当てている。振る舞いを変えることにばかり集中し、思考や態度は眼中にない。症状に集中して問題そのものを見ない。
- テオが補足する。非生産的な振る舞いは「問題があるという警告」である場合が多いのに、私たちはつい「その振る舞いを指摘して変えれば問題は解決する」と思いたくなる。
- アナが「ゼンメルワイスの一件のように」と繋ぎ、自己欺瞞の問題は表面に見える振る舞いより深いところにあり、解決法も深いものにならざるを得ないと確認される。
- ルーの回復の順序が示される。まず物事をはっきりと見る → ひとたび箱の外に出て周囲を的確に見られるようになれば、何をなすべきかは明確にわかった → そしてそれを外向きの姿勢で行動に移せた。技巧的でも自分中心でもなかったから、実際に変化を生んだ。
- テオの定式:「正しい診断を下せなければ、半分直っても同じ。ところが共謀と自己欺瞞に関しては、診断自体がほぼ治療といっていい」。箱から出ることは、時に従来より優しいアプローチに、別の状況ではまったく正反対(従来のお粗末な振る舞いに対してより厳しく)繋がる。「正しい」振る舞いは、正しい考えから発しているときにのみ機能する。
- 小見出し「箱から出ると、シンプルになる」。箱から出るとは、周囲の人に関心を持ち、自分が抱えている相手への決めつけを手放すこと、そして自分が上等/下等だという考えをすべて手放すこと。素晴らしい・成功している・有能だという外面を取り繕うことに貴重なエネルギーを費やす過ちを犯さなくてすむ。
- ルーの実感:それまでの生き方よりはるかに簡単だった。以前は満足したためしがなかったが、人生はずっと豊かで満足いくものになり、仕事もとほうもなく生産的になった。
- 小見出し「共謀関係を解体する」。テオが「箱から出て外向きの思考をするのは一回きりのことじゃない。習慣なんだ」と釘を刺す。ルーもケイトも自分も、何度も自己欺瞞に陥っては、こう見られたいという根深い自己像に気づき、脇に置く必要がある。
- トムとアナが自分たちのチーム間の共謀図を作る。テオが四象限を書き、開発部がしていること→営業部に見えている開発部→営業部がしていること→開発部に見えている営業部、の順で埋めていく【図9 チーム間の共謀】。
- 図の完成後、二人が自発的に謝罪と申し出を交わす(アナ「直截にコミュニケーションできるよう工夫すべきだった」、トム「うちの連中ももっと関心を持つべきだったのに、わたしはそういう後押しをしてこなかった」)。テオがそれを指して「診断がすでに効き目を発揮していた」と言う。
## 実践指針
- 対立を改善しようとして「振る舞いの変更」から入るな。まず思考と態度(相手をどう見ているか)を扱え。症状ではなく問題を見る。
- 非生産的な振る舞いを見つけたら、それを「叩けば解決するもの」ではなく「問題があるという警告」として読め。
- 何をすべきかわからない場面では、行動リストを探すより先に、相手を的確に見ることに取り組め。的確に見えれば、なすべきことは明確にわかる。
- 箱から出た結果が「もっと優しく」になるとは限らないと知れ。状況によっては、従来のお粗末な振る舞いに対して従来より厳しく振る舞うほうが役に立つ。
- 同じ「正しい」振る舞いでも、正しい考えから発しているときにのみ機能する、と前提せよ。
- 箱から出るために手放すもの:相手について自分が抱えている決めつけ、自分が上等/下等だという考え、素晴らしい/成功している/有能だという外面の取り繕い。
- 箱から出ることを一回きりのイベントとして扱うな。習慣として反復せよ——自分が運んで回っている「こう見られたい」という根深い自己像に気づき、脇に置く。
- チーム間の対立には四象限の共謀図を実際に書け。相手チームがしていること/こちらに見えている相手の姿/こちらがしていること/相手に見えているこちらの姿。
- 図を書く際は、自分たちの側の行動(さらに強く押す/要求を増やす/連絡を遮断して諦める/会議で文句を言う)も具体的に列挙せよ。
- 内輪のミーティングで相手部門への苦情に時間を取られすぎているのに、当の相手とは直接話していない——この構図を検出せよ。
- 圧力をかける手段(他社の検証計画をコピーして送りつける、攻撃的で消極的なメール)が何の役にも立たないことを認めよ。
## 根拠となる研究・事例
- **ルーの回答「試みはたいていうまくいかない」**:渋々折り合おうとする/相手と距離を置く/新たな振る舞いや方法論を試す → すべて実行しても金輪際いい方向には向かない。「リーダーシップを巡る処方の大半が失敗に終わるというのが、辛い現実なんだ」。テオが「いやあ、まったく。元気の出る話だねえ、ルー」とにやりとする。
- **失敗の理由**:「ほとんどの試みが失敗するのは、誤ったところに焦点を当てているからなんだ。彼らは振る舞いを変えることにばかり集中して、思考や態度は眼中にない。症状には集中しても、問題そのものには目を向けない」。
- **テオの警告の読み替え**:「非生産的な振る舞いというのは、そもそも問題があるということを示す警告である場合が多い。ところがついつい、『とにかく辻褄を合わせられれば——問題の原因となっている彼らの振る舞いを指摘して変えることができれば——問題は解決する!』と思いたくなる」。
- **ゼンメルワイスの一件への参照**(アナ):自己欺瞞の問題は表面に見える振る舞いより深いところにあり、そのため解決法も深いものにならざるを得ない、という点の裏付けとして呼び出される。
- **診断=治療の定式**(テオ):「正しい診断を下せなければ、半分直っても同じ。ところが共謀と自己欺瞞に関しては、診断自体がほぼ治療といっていい」。
- **ルーの生活の変化**:以前は満足したためしがなかったが、「あの時から、わたしの人生はずっと豊かで満足いくものになった」。自己正当化のタネを掘り出すことにかけては達人だったが、他の人びとをよく見て応えるようになってからは、仕事もとほうもなく生産的になった。トムの「そう簡単に、いきますかねえ?」に対し、「まあわたしの場合は、それまでの自分の生き方よりも、はるかに簡単だった」。
- **習慣としての外向き**(テオ):「箱から出て外向きの思考をするというのは、一回きりのことじゃない。習慣なんだ。ルーやケイトやわたしは何度も何度も自己欺瞞に陥っては、(自己像に)気づき、脇に置いて、本当の意味で人びととともにあれるようにならねばならない」。ルーの口癖「今に勝る時はなし!」が二人にもはっきり伝わる。
- **図9 チーム間の共謀**:
- 開発部がしていること:フィードバックに抗う/答えを与えまいとする/言い訳をする/応答が遅い(トムが自分の側から挙げた。「営業が望むほどオープンではないらしい、特に彼らが顧客から学んできたことに対して」「製品についての要求に対するわたしたちの応答が遅い」)
- 営業部に見えている開発部の姿:傲慢/顧客との接触を断つ/一緒に仕事をしづらい(アナが前日から挙げていた)
- 営業部がしていること:さらに強く押す/さらに要求を出す/連絡を遮断し、諦める/会議で文句を言う(アナ自身の申告。「さらにメールを送ったり、正式な要望書を出したり。さもなければ連絡を遮断する」「内輪のミーティングでも開発部に対する苦情に時間を取られすぎている。さんざん悩まされているくせに、直接開発部とは話をしていない」)
- 開発部に見えている営業部の姿:辛抱が足りない/現実的でない/要求が多すぎる
- 完成した図は「二人をにらみ返してくるようだった」。アナ「わたしたちのやることなすことすべてがこういう状況を強めるばかりで」。
- **メールの力業**:問題解決に取り組んでいないと相手を責めるような、攻撃的でしかも消極的なメール。他の検証計画をコピーして送りつけ、圧力をかけると同時に自分たちの頑張りを見せつける手法。トム「ふん! あの忌々しいメールを使った力業ね(=アナ談)」「まったくあれは嫌なものだ!」。
- **図の完成後に起きたこと**:アナ「この件についてあなたと話をしなかったことは、悪かったと思っている。あなたのチームともっと直截にコミュニケーションできるよう、工夫すべきだった」 → トム「まあこちらも、自分たちこそが開発部で行っていることを正確に把握しているんだと思いたがっていたから。でも実際には顧客から遠く離れていたんだろうし、君たちのチームは本当に有能なんだと思う。うちの連中ももっと関心を持つべきだったのに、わたしはそういう後押しをしてこなかった」 → アナ「あなたのチームは、いくつか大きくて見事な進歩を遂げてきた。もっとうまく協働できれば、顧客のために真の革新をもたらすことができるかもしれない」 → トム「君たちの助けを借りて綿密なチェックをして、いくつかの製品変更の要望を組み合わせれば、無駄を省けるかもしれない。そうすれば、もっと迅速に対応できるはずだ」。
- **テオの締め**:二人はやりとりの間にテオが着席していたことに気づいていなかった。「トムとアナが理解した事柄——すなわち診断——が、すでに効き目を発揮していたのだ」。テオ「ついに、自分たちが互いに対して箱に入り内向き思考に陥ることで、問題となっていた行動——自分たちがそうするのは正当だと思っていた行動——を推し進めてきた、ということが認識できたわけだ。だったらここから、よりよいやり方を見つけることができる」。ルーが拍手して「未来は明るいぞ、テオ。そうだろ?」。
## キーワード
- **診断がほぼ治療**:共謀と自己欺瞞においては、構造を正しく見ること自体が変化を生むという性質。
- **症状と問題**:非生産的な振る舞い(症状)と、内向きの思考・態度(問題)の区別。処方が失敗するのは症状にだけ手を出すため。
- **箱から出る=手放す**:相手への決めつけ、上等/下等の考え、有能さの外面を取り繕うこと、を手放すこと。
- **習慣としての外向きの姿勢**:一度きりの転換ではなく、繰り返し自己像に気づいて脇に置く実践。
- **チーム間の共謀(図9)**:個人間の共謀と同型の四象限が、部門間(営業部と開発部)でも成立すること。