<!-- pages: part2 7-8 --> # 19章「わたしたちは人を責めない組織でありたい」 ## 中心主張 自己欺瞞とは「本人の認識が自分の気に入るように体系的にゆがめられた状態」であり、その最もよくある指標が"責め"と"言い訳"である。責めと言い訳は企業文化を汚染し、問題解決・協力・革新に向けるべきエネルギーと創造性を自己正当化に注ぎ込ませる。逆に、責任を負おうとする姿勢もまた文化に広めることができ、それはリーダーから始まる。 ## 論の展開 - テオがここまでを総括する。リーダー・組織・個人が直面する最も急を要する問題の一つが自己欺瞞であり、ほとんどの人は自分がその問題を抱えていることにすら気づいていない。 - 機序の再確認:他者を"人"として見られない/人間性に応え損ねる → 自分を正当化する必要が生じる → 自分は周りより上等だ/下等だと見なす → 歪んだ視野を下支えするために理屈で他者を責め、言い訳をする。責めや言い訳がもっともらしいほど自己欺瞞は強固になる。 - 言い訳は高度化する。効率・公正さ・常識といった価値観に基づけばこうするしかなかった、と主張し、自分への裏切りを合理化して「無理もないこと」どころか「高潔なもの」にすら見せようとする。 - トムが実務的な問いを出す。「自分が自身への裏切りを正当化しているのか、酌量すべき情状を考えているだけなのか、どうやって判断するのか」。テオは二つの指標を挙げる(責任を自発的に取る意思/注意の向き先)。 - 小見出し「自分を正当化する必要はない」でジア・チェンの事例に入り、責めない組織のモデルを提示する。ジアは部下(テオ)のミスの責任を自ら顧客に告げ、テオ自身の責任意識を何千倍にも引き上げた。 - 結論:責めない組織には並外れたレベルの結果責任の意識が必要であり、それはリーダーから始まる。ランチ後に「自己欺瞞がどのように広がるのか」を扱うと予告される。 ## 実践指針 - 自己正当化か情状酌量かを見分ける場面では、二つの指標を使え。①その状況への自分の寄与や選択に、どこまで自発的に責任を取るつもりがあるか。②自分の注意は「他の人びとをさらに深く理解すること」に向いているか、「他の人びとが責められるに値する何か」に向いているか。 - 責任を認めるふりをして「確かにわたしがめちゃくちゃにしたのかもしれない、でも……こうだから、ああだから」と補足説明を付け加えるパターンを、自分の中で検出せよ。戦略的な部分的譲歩は自己正当化の型である。 - 自分が守りに入ったときの体感と、単に事実を説明しているときの体感の違いを手がかりにせよ。だいたいの人はその違いを知っている。 - 「間違えた理由を認めること」と「責任を回避すること」を混同するな。 - 部下のミスが実際には自分の監督不足に由来する場面では、自分のミスとして先に名乗り出て、顧客・関係者に自ら知らせよ。 - ミスが露見したときは、自分のイメージを守ることにエネルギーを使うな。コースを修正して損失を最小にすることに全エネルギーを注げ。 - 責任を取ったうえで、相手のミスも見過ごすな。ジアは「あなたはチェックすべきだった」と明言したうえで「わたしもミスをした」と言った——率直さと責任の引き受けは両立する。 - 組織文化として"責め"と"言い訳"を指標に据えよ。それが増えているときは、問題解決・協力・革新に向くはずのエネルギーが自己正当化に流れている。 - 責任を負う姿勢を広めるには、まずリーダーが実演せよ。トリクルではなくリーダー起点。 ## 根拠となる研究・事例 - **自己欺瞞の言い訳の類型(テオの列挙)**:「わたしに、自分から握手を求めて手を差し出し、自己紹介をすることを期待されてもなあ……だってこちらは雇われたばかりなんだから!」/「ここに問題があるのはわかるけれど、別にわたしの職分ではないんだから、放っておこう」/「この問題に関わるのは止めておこう。彼らは自分たちの行動の結果から、教訓を得るべきなんだ」 → いずれも歪んだ視野を下支えするための理屈。 - **ジア・チェンの事例(テオのロールモデル)**: - 状況:ジアは当時テオの上司の弁護士、現在は連邦判事。テオは弁護士になって四年目、法律事務所の最大顧客の一つがカリフォルニアの移動住宅(トレーラーパーク)用地の取得を計画。テオが移動住宅関連法を読み込み「土地を取得しても問題がない」という分厚い覚え書きを作成。上司も顧客も満足。 - 転機:二週間後、ジアと調べ物をしていて「ポケット・パーツ」の存在に行き当たる。法律書は印刷費が高いため、更新情報を本の後ろのポケットに差し込む形で配布していた。図書室で確認すると、法律は法的・財政的・役所との関係すべてにおいて大幅に変わっていた。テオが顧客に出した青信号は、顧客をまっしぐらに悪夢に突っ込ませるものだった。 - 結果:ジアは自分のキャリアに甚大な影響が及ぶことを承知のうえで、顧客の主幹事ジェリーに電話し「わたしがミスをしていて、法律の変更を見落としていた」と自ら告げた。実際にはテオのミスだった。 - テオが自分の責任を認めると、ジアは微笑んで「そうね。あなたはチェックすべきだった。でもわたしはあなたを監督する立場にある。流れのなかで幾度か、あなたに確認しようと思ったけれど、そうしなかった。もし話していれば、こんなことにはならなかった。あなたはミスをしたけれど、わたしもミスをしたのよ」と言った。 - 示唆:ジアには部下を責める明白な理由があり、完璧に正当化できた。だが「自分を正当化する必要がなかった」ため、ミスで自分の価値が決まることを恐れず、自己イメージの防衛に拘らず、全エネルギーを損失最小化に注げた。そしてテオ自身が、はるかに大きな自分の責任を何千倍も喜んで取る気になった。 - 後日談:数年後、ジェリーはジアの共同経営者就任祝いのパーティーで、あのときのメールの一部を会社のみんなに披露した。ジアは満場一致で共同経営者に選ばれた。 - 事務所四年目という時期の重み:周囲から経験豊富で信頼でき能力があると見られ始める時期で、ミスは共同経営者になるチャンスを潰しかねなかった(=プレッシャーの大きさ)。 - **トムの締めの言葉**:「今朝は遅刻して、本当に申し訳ありませんでした」→ テオ「いいかい、ここで語られたすべてを実践に移すために君たちがこの部屋の外で試みることのほうが、この部屋のなかで起きていることよりもはるかに重要なんだからね」。 ## キーワード - **自己欺瞞**:本人の認識が自分の気に入るように体系的にゆがめられた状態。またの名を内向きの姿勢、あるいは「箱に入っている」。 - **責めと言い訳**:自己欺瞞のもっともよくある指標。急速に企業文化を汚染し、注意を結果から逸らす。 - **自分への裏切りの合理化**:効率・公正さ・常識といった価値観を持ち出し、自分への裏切りを無理もないこと、さらには高潔なものに見せる働き。 - **ポケット・パーツ**:法律書の巻末ポケットに差し込む法改正の更新文書。ジアの事例で見落とされた更新情報。 - **人を責めない組織**:並外れたレベルの結果責任の意識に支えられた文化。リーダーから始まる。