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# 11章 不当な扱いに対抗するには
## 中心主張
ケイトが、ザグラム社に入ったばかりの頃の自分と創業者ルー・ハーバートの関係を語る。ルーの振る舞いには確かに問題があったが、他の誰かがひどい振る舞いをしたからといって自分自身の振る舞いが正当化されるわけではない。ルーの「上等」が空威張りの傲慢として現れたのに対し、ケイトの「上等」は独善として現れ、同じくらい ── あるいはもっと ── 会社をだめにしていた。そして責任あるリーダーであるとは、過去の不足にも責任を取ることである。
## 論の展開
- ランチの後、ケイトがトムを呼び止める。トムは不意打ちを警戒して午前中の出来事をざっと思い返す。二人でエレベーターに向かいながら会話が始まる。
- 世間話から入る ── 「もうこの会社には慣れた?」「順調に。確かにつむじ風みたいにめまぐるしくはありますが、この会社に来られてワクワクしています。チームも最高ですし」。「それで、職場の外では?」「いっさい不満はありません。正直言って、誰かに十代の娘の親向けの手引き書をもらっておけばよかった、とは思いますが……」。
- ケイトの応答 ── 「わたしは、姪が成長するのを傍から見ているだけで、ほとんど何もできなかったけれど、時には大変なこともあったみたい。でもみんな、ちゃんと育ち上がっているし。それに、ほら、わたしの兄弟たちにもできたことなのだから、あなたにもきっとできるわ」。
- 学びの位置づけ ── ケイトは、今テオやアナとともに学んでいることが、この会社で成功するうえで技術や経験の総体と同じくらい重要だと伝える。「ただ、頭脳明晰で知識があるだけではだめなの。さらに、自分の周りの人びとにプラスの影響を及ぼす必要がある」。
- 期待の表明 ── 「あなたは我が社の開発部がこの業界の最先端に立ち続けるうえで最適の人材だ、と強く感じているから」。
- 本題に入る ── 「じつは元上司のピエールとの一件を耳にして、あなたの過去が、ここでリーダーとしての力を発揮するうえで邪魔になるんじゃないかと気になって……」。トムは遮る ── 「あれは、わたしにとって最高に素晴らしい瞬間とはいえませんでした」。
- ケイトが自分の話を差し出す ── ザグラム社に入ったばかりの頃、上級管理職のチームに所属していて、創立者ルー・ハーバートに上申する立場にあった。「ルーにはもう会った?」「ええ、まだです」。
- ケイトのルー評 ── 「わたしはルーに愛想を尽かしていた。粗野で気に障る人物、自分は他の人たちよりスマートだというふうに振る舞ってばかり。彼に問題があることはわかっていた」。(トムはこの間、「ピエール・カードンは決して変わらない」と内心で考えている。)
- 転回点 ── 「けれどもわたしは気づいていなかった ── わたし自身も自己欺瞞に陥っていることに」。問題はルーがケイトたちを見る目や向き合い方だったのは事実で、彼は人の自尊心を傷つけるのが本当にうまかった。「でもわたしは、他の誰かがひどい振る舞いをしたからといって、自分自身の振る舞いが正当化されるわけではない、ということに気がつくべきだった」。
- 対称性の発見 ── 表向き、ケイトの内向きな姿勢はルーのそれと違うように見え、自分は彼より上等だと思い込んでいた。だが自分自身がいろいろなやり方で、みんなが ── 他の役員だけではなく、自分のチーム全体が ── 彼に刃向かうように仕向けていたことを、完全に見過ごしていた。
- 決定的な自己評価 ── 「ルーは会社をだめにしていたかもしれないけれど、その点では、わたしも同じだった。自分は他より上等だという彼の内向きな姿勢は、空威張りの傲慢な態度に表れていたけれど、自分は他より上等だというわたしの内向きな姿勢は、独善として表れていて、同じくらい ── いえ、ひょっとするともっと ── 会社をだめにしていた。わたしは単に、少しだけましな方法でこの場所を台無しにしていただけだった」。
- 責任の切り分け ── 「わたしがここに戻ってきたのは、この会社を救いたいと思ったから。よく考えてみたら、わたしたち二人がともに変わらなければならないということもわかった。ルーがすることは、ルーが決めるべきなのよ。わたしがコントロールできるのは自分だけだ」。
- 見出し「過去にも未来にも責任を取る」── トムがしばらく黙ったあと、ため息をついて打ち明ける。「このことはめったに話さないんですが、じつはこの前の会社は、クビになったんです。あそこで十年近く働いていて、会社に貢献していることは明らかだと思っていた。でもどうやらあちらはそうは思わなかったらしい。それ以来なんか毎日もやもやしていて……」。
- ケイトの問い ── 「あなたはこれから、ピエールとのことをどうするつもりなの?」。トムは口ごもる ── 「それはまあ……もう同じ職場でもありませんしねえ」「それに、もうほとんど縁も切れていますし……」。(内心で「おいおまえ、もっとはっきりいえないのかよ!」と自分を叱りつける。)
- ケイトの投げかけ ── 「ちょっと考えてみてくれないかしら ── 何か、すべきと思えることがあるかどうか。現時点で完璧に責任あるリーダーであるということは、過去の不足にも責任をとる、ということなのよ」。
- トムの反応 ── あっけにとられていた。未だかつて、誰からもこんなふうにいわれたことはなかった。挑まれているような、それでいて希望が見えてきたような気がしていた。
- 締め ── 「時間を割いてくれて、ありがとう。トム」ケイトは立ち上がって手を差し出した。「わたしたちにとって、あなたが成功することがとても重要なの。なにかできることがあったら、遠慮なくいってちょうだい」。
## 実践指針
- 相手のひどい振る舞いに直面した場面では、それが自分の振る舞いを正当化しないと知れ。相手の問題は実在してよいが、自分の免罪符にはならない。
- 相手より自分のほうがましだと感じる場面では、その「ましさ」の形(空威張りの傲慢 vs 独善)が違うだけで、組織への破壊力は同等か、それ以上でありうると疑え。
- 対立相手を変えようとする場面では、自分がコントロールできるのは自分だけだと確認せよ。相手がすることは相手が決める。
- 自分が周囲を相手に敵対するよう仕向けていないか点検する場面では、直接の言動だけでなく、チーム全体の空気の作り方を見よ。
- 部下や後任の過去の失敗を耳にした場面では、それを不問にも減点にもせず、「その過去が今の力の発揮の邪魔になっていないか」という問いとして本人に開け。
- 相手に厳しい問いを投げる場面では、先に自分の同種の失敗を開示せよ(ケイトはルーとの件を語ってからトムに問うている)。
- 過去の関係が切れた相手について「もう縁がないから」と処理しそうになった場面では、それが逃げになっていないか点検せよ。
- 責任あるリーダーであろうとする場面では、現時点の職務だけでなく、過去の不足にも責任を取れ。
- 部下に難題を突きつけた場面では、同時に「あなたが成功することが我々にとって重要だ」という支援の意思も明示せよ。
- 新任者を迎える場面では、技術や経験と同等に「周りの人びとにプラスの影響を及ぼすこと」を期待として明言せよ。
## 根拠となる研究・事例
- **ケイトとルー・ハーバートの関係**: ケイトはザグラム社に入ったばかりの頃、上級管理職のチームに所属し、創立者ルー・ハーバートに上申する立場にあった。ルーは「粗野で気に障る人物、自分は他の人たちよりスマートだというふうに振る舞ってばかり」で、「人の自尊心を傷つけるのが本当にうまく」、ケイトは彼に愛想を尽かしていた。→ 結果: ケイトは自分自身も自己欺瞞に陥っていることに気づいていなかった。→ 示唆: 相手の欠点を正確に認識していることは、自分の箱を検出する助けにならない。
- **ケイトの独善 vs ルーの傲慢**: 「自分は他より上等だという彼の内向きな姿勢は、空威張りの傲慢な態度に表れていたけれど、自分は他より上等だというわたしの内向きな姿勢は、独善として表れていて、同じくらい ── いえ、ひょっとするともっと ── 会社をだめにしていた。わたしは単に、少しだけましな方法でこの場所を台無しにしていただけだった」→ 結果: ケイトは、自分がいろいろなやり方で、他の役員だけでなく自分のチーム全体がルーに刃向かうように仕向けていたことを完全に見過ごしていた。→ 示唆: 「上等」の症状は人によって外形が異なるため、他人の症状を基準に自分を診断すると必ず見落とす。
- **ケイトの復帰と責任の切り分け**: 「わたしがここに戻ってきたのは、この会社を救いたいと思ったから。よく考えてみたら、わたしたち二人がともに変わらなければならないということもわかった。ルーがすることは、ルーが決めるべきなのよ」→ 示唆: 相手の変化を条件にしない形で、自分の変化を決めている。
- **トムの内心(ピエールは変わらない)**: ケイトが「しばらくの間は、ルーが変わったからだと思っていた。いつまで続くかはわからなかったけれど、確かに彼はいい方に変わっていたから」と語るのに対し、トムは内心で「そこが違うんだよなあ。ピエール・カードンは決して変わらない」と考える。→ 示唆: ケイトの話を聞きながら、トムはまだ相手の変化可能性の話として受け取っており、自分の話に翻訳できていない。
- **トムの解雇の告白**: 「このことはめったに話さないんですが、じつはこの前の会社は、クビになったんです。あそこで十年近く働いていて、会社に貢献していることは明らかだと思っていた。でもどうやらあちらはそうは思わなかったらしい。それ以来なんか毎日もやもやしていて……」→ 示唆: 1章冒頭でトムが身構えていた理由がここで明かされる。十年近い勤務。
- **ケイトの問い「あなたはこれから、ピエールとのことをどうするつもりなの?」**: トムは口ごもり、「もう同じ職場でもありませんし」「もうほとんど縁も切れていますし」と回避する。内心では「おいおまえ、もっとはっきりいえないのかよ!」と自分を叱りつけている。→ 結果: ケイト「ちょっと考えてみてくれないかしら ── 何か、すべきと思えることがあるかどうか。現時点で完璧に責任あるリーダーであるということは、過去の不足にも責任をとる、ということなのよ」。→ 示唆: この問いが14章でのトムからピエールへの電話に直結する。
- **トムの受け止め**: あっけにとられていた。未だかつて、誰からもこんなふうにいわれたことはなかった。挑まれているような、それでいて希望が見えてきたような気がしていた。→ 示唆: 責任を求められることが、非難ではなく希望として体験されている。
- **ケイトの支援表明**: 「わたしたちにとって、あなたが成功することがとても重要なの。なにかできることがあったら、遠慮なくいってちょうだい」→ 示唆: 課題の提示と支援の約束が同じ会話の中で対になっている。
## キーワード
- **過去にも未来にも責任を取る**: 現時点で完璧に責任あるリーダーであるということは、過去の不足にも責任を取るということ。
- **独善**: ケイトの「より上等」が取った形。ルーの空威張りの傲慢と対をなす。
- **ルー・ハーバート**: ザグラム社の創立者・前最高経営責任者。粗野で人の自尊心を傷つけるのがうまい人物だったが、のちに変わった。
- **わたしがコントロールできるのは自分だけ**: 相手の変化を条件にしない責任の取り方。