<!-- pages: part1 17-21 --> # 4章 リーダーにとって一番大切なこと ## 中心主張 リーダーのもっとも重要な仕事は、物事を的確に理解し、さらに他の人びとをも物事を的確に理解できるようにすることである。『的確な認識』があって初めて、効果的なリーダーシップを発揮できる。ところが箱に入ると、相手が「邪魔者」に見え、互いが「自分が正しい」と思い込み、双方が無力感を抱いて問題を解決できなくなる。 ## 論の展開 - テオが「リーダーであるということは、どういうことなんだろう」と問い、ホワイトボードに要点を書き出す。トムは「部下が仕事を遂行するのを支えること」、アナは「誰もがなすべきことをできているかどうか確認すること」「必要な情報をまとめて、みんなが結果を出したいと思うように持っていくこと」を挙げる。テオは「みんなにやる気を起こさせたり、チームを導いたり、成功するチャンスを与え、その責任を持つこと」を付け加える。 - トムが「無能だったり、怠惰だったりする人もいて」「自分の仕事に誇りを持っていなかったり、人に指示されることを嫌ったりする人もいて」と口を挟むと、テオはそこで一度話を止める。 - テオの主張: 君たちがここにいるのは立派な履歴書や推薦状があったからではない。リーダーになるためであって、それには立派な資格を持ち命令を下すだけではだめだ。リーダーのもっとも重要な仕事は、物事を的確に理解して、さらに他の人びとをも物事を的確に理解できるようにすること。 - 見出し「周りの人が『邪魔者』に見えるとき」── テオがトムに、誰かに何かを教えようとしたのに、あるいは誰かの行動を変えようと説得したのに、うまくいかなかった例を尋ねる。 - トムは娘レベッカの靴紐の話をする。娘は靴紐の結び方が下手で、走るたびにほどけては文句を言うのに、小間結びの結び方を教えようとすると怒り狂って「あっちに行け」と言う。 - テオが「問題は、娘が靴紐をきちんと結ばないということなんです」というトムの定義を確認したうえで、「君は、娘さんをどう見ているのかな」と問う。トム: 娘は意固地。テオが「では、あの子は君をどう見ていると思う?」と問うと、トムは「コントロール・フリークで、独断的であら探しばかりしている」と答える。 - テオの整理: 互いを否定的に捉え、ともにその見方を強めていく。これがまさに「箱」のせいで互いを見る目が歪むということ。「そしてこれは個人の間でも、グループの間でも起きる」。 - 見出し「互いに『自分が正しい』と思い込む」── 話は営業部と開発部の対立に移る。アナ: 開発部はフィードバックに対して心を閉ざしていて「もう手遅れで変更はできない」というだけ。トム: 営業部は魔法の製品(製造コストがかからず即出荷できる製品)を求めていて、メールにいちいち即対応していたら技術者の仕事の時間がなくなる。 - テオがホワイトボードに双方の見方を書き出す(図1)。 - 見出し「『チームの見方』と『リーダーの見方』」── トムが「そういう見方や感じ方は、何もないところから生まれたわけではない。客観的な事実も含まれている」と反論する。テオは「まずは、そこまで」と止め、「問題はそこにはない」と言う。 - テオの核心的整理: 我が社の二つの部署がどちらも完璧に相手が悪いと思い込んでいる、という点が問題。どちらの側も相手が責められるべきだと思い、そのため双方ともに自分にはこの問題を解決する力がないと感じている。だからいらだち、不信を募らせ、無力感を抱く。 - リーダーの選択肢: チームの見方を強化してその味方をし続けるか、彼らを率いて真の問題を解決するか。「リーダーが自分のチームの味方をしたくなるものだ」とアナ。「自分のチームに共感するのはごく自然なことだ」とテオは認めたうえで、「だがここでは、互いの敵になっている余裕などない。チーム同士がともに働く術を見いだせないと、会社が死んでしまう」と言う。 - 締めの一文: 「真の問題を見ることができなければ、それを解決することはできない。実際……往々にして、さらに悪化させることになる」。トムとアナは相変わらず、目をそらしたままだった。 ## 実践指針 - リーダーの職務を定義する場面では、「支える」「確認する」「情報をまとめる」に留めず、「物事を的確に理解し、他の人びとも的確に理解できるようにすること」を最上位に置け。 - 部下が言うことを聞かない場面では、「相手が何をどう変えるべきか」ではなく「自分が相手をどう見ているか」と「相手が自分をどう見ているか」を先に問え。 - 相手に何かを教えようとしてうまくいかない場面では、相手の抵抗を不可解・怠惰・意固地と解釈するのをやめ、その抵抗には理由があると仮定せよ。 - 相手が「邪魔者」に見えている場面では、その見え方自体が箱に入っている徴候だと認識せよ。 - 二つのグループが衝突している場面では、どちらの言い分が客観的に正しいかの検証に入るな。「双方が完璧に相手が悪いと思い込んでいる」という構造こそが問題である。 - 自分のチームの言い分に共感したくなる場面では、共感は自然だと認めたうえで、「彼らの見方を強化して味方をし続けるか、彼らを率いて真の問題を解決するか」を意識的に選べ。 - チーム間対立を扱う場面では、争いがどこで始まったか・自分たちの視点がどれほど客観的に正しく感じられるかにかかわらず、互いの敵になっている余裕はないと知れ。 - 自分に問題解決の力がないと感じる場面では、その無力感が「相手が責められるべきだ」という前提から生じていないかを疑え。 - 真の問題が見えていない状態で解決に着手する場面では、往々にして事態をさらに悪化させると知り、まず見ることに戻れ。 ## 根拠となる研究・事例 - **リーダー像のブレインストーミング**: テオの問いに対し、トム「部下が仕事を遂行するのを支えること」、アナ「誰もがなすべきことをできているかどうか、確認すること」「必要な情報をまとめて、みんなが結果を出したいと思うように持っていくこと」、テオ「みんなにやる気を起こさせたり、チームを導いたり、成功するチャンスを与え、その責任を持つこと」。→ 結果: どれも正しいが、テオはそれらを不十分として次の水準を提示する。→ 示唆: 一般的なリーダー論は認識の問題を含まない。 - **トムの「無能・怠惰な人もいる」発言**: 「とにかく無能だったり、怠惰だったりする人もいて」「ぼく自身、さんざんそういう人を見てきた。自分の仕事に誇りを持っていなかったり、人に指示されることを嫌ったりする人もいて」→ 結果: テオは「そのくらいで、いいだろう」と止める。→ 示唆: 部下を能力で分類する語り方そのものが、箱の中の見方の標本になっている。 - **靴紐のエピソード(レベッカ)**: トムの十代の娘レベッカは靴紐の結び方が下手で、一緒にランニングに出るたびに靴紐がほどけて文句を言う。トムは小間結びで結ぶ方法を教えようとしたが、娘は怒り狂って「あっちに行け」と言う。トムの問題定義は「娘が靴紐をきちんと結ばないこと」。→ 結果: テオの問い「君は娘さんをどう見ているのか」に対しトムは「意固地」、「あの子は君をどう見ていると思う?」に対しては「コントロール・フリークで、独断的であら探しばかりしている」と答える。→ 示唆: 双方が相手を否定的に捉え、その見方を互いに強め合う。問題は靴紐ではなく見方にある。 - **図1「衝突しているグループは互いをこう見ている」**: 営業部は開発部を「非協力的/フィードバックに対して閉じている/返信すらしない」と見ている。開発部は営業部を「辛抱が足りない/現実的でない/要求が多すぎる」と見ている。→ 結果: 双方が自分の側の見方を客観的事実だと信じている。→ 示唆: 対立する両者の告発リストは、構造的に対称形になる。 - **トムの「客観的事実」反論**: 「そういう見方や感じ方は、何もないところから生まれたわけではないですよね」「客観的な事実も含まれていますし。開発部が顧客のフィードバックに基づいて変更を行う際にはわたし自身が監督しましたし、なんなら営業部がよこした大量のメールもお見せできますよ」→ 結果: テオは「まずは、そこまで」と遮り、「問題はそこにはない」と言う。→ 示唆: 証拠の量の多寡は、対立の解決に何も寄与しない。 - **無力感の発生機序**: 「どちらの側も相手が責められるべきだと思い、そのため双方ともに、自分にはこの問題を解決する力がないと感じている。だからいらだち、不信を募らせ、無力感を抱く」→ 示唆: 責任の所在を相手に置くことが、そのまま自分の無力の宣言になっている。 - **アナの「リーダーが自分のチームの味方をしたくなるものだ」**: 「わたしは誰よりもよく知っている」→ 結果: テオは「自分のチームに共感するのはごく自然なことだ」と認めつつ、「だがここでは、互いの敵になっている余裕などない。チーム同士がともに働く術を見いだせないと、会社が死んでしまう」と応じる。→ 示唆: 共感の否定ではなく、共感の帰結を問うている。 - **章末の描写**: 「真の問題を見ることができなければ、それを解決することはできない。実際……往々にして、さらに悪化させることになる」。トムとアナは相変わらず、目をそらしたままだ。→ 示唆: 説明は届いているが、まだ自分ごとにはなっていない。 ## キーワード - **的確な認識**: 効果的なリーダーシップの前提条件。物事を的確に理解し、他の人びとも的確に理解できるようにすること。 - **邪魔者**: 箱に入ったときに他者が見えてくる姿の一つ(他に「道具」「無関係」がある。6章・10章で三分類として整理される)。 - **チームの見方 / リーダーの見方**: チームの見方を強化して味方をし続けるか、彼らを率いて真の問題を解決するか、という選択軸。 - **コントロール・フリーク**: レベッカがトムを見る目。トムがレベッカを「意固地」と見るのと対になる。 - **図1**: 衝突しているグループは互いをこう見ている。