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# 3章 「見えていない自分」に気づく
## 中心主張
テオは自分の状態を『自己欺瞞』── ザグラム社では『箱』とも呼ぶ ── と名づける。自己欺瞞とは文字通り自分を欺くことであり、自分自身が見えなくなるだけでなく、他の人びとを見る目も歪む。そしてトムとアナが目の前で始めた部門間の応酬こそが、その生きた実例として扱われる。
## 論の展開
- テオは自分の当時の状態を『自己欺瞞』と名づけ、「ザグラム社ではこれを『箱』とも呼んでいる」と紹介する。
- トムが「自己欺瞞なんて単なる空理空論で哲学の話題でしかない」と鼻を鳴らすと、テオは反論する ── 従業員の側の幸福感や生産性には多種多様な要素が影響し、なかには個人がコントロールできないものもある。だが自分がどう扱われようと、どんな条件であろうと、人はロボットではない。
- テオ自身の当時の選択肢が示される ── 孤立して自己憐憫に浸るのではなく、職務上ともに力を合わせるべき人びとに自分の状況を訴えることもできた。間違いなく、自分だけが懸命に働いていたわけでもなかった。
- テオはトムとアナに、目の前の自分たちのチームの間に起きている問題を目の当たりにしてほしいと促す。「自分のチームにそういう人がいないか?」
- アナが万年筆のキャップを外しノートを取り出す。テーブル中央に社名入りのメモ帳の小さな山があり、テオがその一つをトムのほうに滑らせる(=二人の姿勢の差の描写)。
- トムが口火を切る ── 「この会社のみなさんからは、概して強い印象を受けました。素晴らしい会社です」「でも、正直いって、営業部に問題がある、という話は耳にしたことがあります」。
- アナのチーム(営業)は、現実とはまるでかけ離れた引き渡し期限や価格設定を約束し続けているらしい、という指摘。アナはそれを正そうとして、幹部の面前で反論して大丈夫だろうかという気持ちと、自分のチームを守らなくてはという気持ちの綱引きをする。
- テオは応酬を止め、「相手を責めて守りに入ってみても、自分の望む結果には決してならない」と告げる。自分たちが今、幹部の面前で言い争っていたことに二人は気づく。
- 章の結論として、リーダーとして成功したいなら、まずもっとも重要なこととして『いかに見るか』── 自分自身を見つめ、自分が影響を与えている相手を的確に見ること ── を習得する必要がある、と提示される。
## 実践指針
- 自分の不遇を感じる場面では、孤立して自己憐憫に浸るのではなく、職務上ともに力を合わせるべき人びとに自分の状況を訴えよ。
- 他部署の問題を報告する場面では、「◯◯部に問題があるという話を耳にした」という伝聞の形を取っても、それは相手を責めて守りに入る行為だと自覚せよ。
- 自分のチームを守りたくなる場面では、守ることと、真の問題を解決することを区別せよ。
- 相手を責めて守りに入っていることに気づいた場面では、望む結果は決して得られないと知り、その姿勢自体を降ろせ。
- 部下やチームの前で衝突しかけた場面では、まず「今、自分は誰の前で何をしているか」を認識せよ(トムとアナは幹部の面前での口論に自分で気づいた)。
- リーダーとしての能力開発に取り組む場面では、技術やコミュニケーション技法よりも先に『いかに見るか』を習得せよ。
- 部下の能力を解き放ちたい場面では、行き詰まりから抜けるのを助けることを自分の職務と考えよ ── ただし秘密の方程式や表面的な振る舞いの変更では、真の意味での変化は起こせない。
## 根拠となる研究・事例
- **『箱』という社内語の導入**: テオが「『自己欺瞞』に陥っていたんだ」「『自己欺瞞』とは文字通り自分を欺くことなんだが、ザグラム社ではこれを『箱』とも呼んでいる」と説明する。→ 結果: トムは鼻を鳴らして椅子にもたれかかり、「単なる空理空論で哲学の話題でしかない」と反発する。→ 示唆: 概念に名前を与えた瞬間に、聞き手は防御として「抽象論」というラベルを貼る。
- **「人間はロボットではない」という反論**: 従業員の側の幸福感や生産性には多種多様な要素が影響し、なかには個人がコントロールできないものもある。でも、自分がどう扱われようと、どんな条件であろうと ── 人間はロボットではない。→ 結果: 自分の仕事が環境の影響をいっさい受けないと考えるのは馬鹿げているが、環境が自分の認識を決めるわけでもない、という中間の立場が確立される。→ 示唆: 環境決定論も精神論も否定した上で、認識の選択責任だけが残る。
- **メモ帳のディテール**: アナは万年筆のキャップを外してノートを取り出した。テーブル中央には社名入りのメモ帳が小さな山になっており、テオがその一つをトムの方に滑らせる。→ 結果: トムはそれを受け取る。→ 示唆: 学ぶ準備の差が、道具の持参という些細な描写で示されている。
- **トムの「営業部に問題がある」発言**: 「この会社のみなさんからは、概して強い印象を受けました。素晴らしい会社です」「でも、正直いって、営業部に問題がある、という話は耳にしたことがあります」→ 結果: アナのチームが強ばり、営業担当が現実離れした引き渡し期限や価格設定を約束し続けている、という具体的告発になる。アナはちらりとテオの方を見て、自分のチームを守らなくては、という気持ちと、幹部の面前で反論して大丈夫だろうかという気持ちの綱引きをする。→ 示唆: 賞賛の前置きは、そのあとに続く告発を中和しない。
- **テオの介入(見出し「相手を責めて守りに入るとき」)**: 「相手を責めて守りに入ってみても、自分の望む結果には決してならない」→ 結果: 二人揃って、自分たちが幹部であるテオドール・ジェファーソンの面前で言い争っていたことに気づく。→ 示唆: 箱の中では、自分が今どう振る舞っているかすら見えない。
- **リーダーの職務の定義**: 「君たちがみんなに協力を促して、行き詰まりから抜けるのを助けるリーダーになる。その手助けをすることが、わたしの職務なんだ」。ただし「君たちがその問題を解決しようと、コミュニケーションの技術を使おうと、秘密の方程式を使おうと、君たちのチームの間のこれらの問題を解決するうえでは ── そして君たちが最終的な成功を得るうえでも ── いっさい真の意味での変化を起こすことはできない」→ 結果: 技法ではなく認識の問題であることが明示される。→ 示唆: スキル研修は、認識が歪んだままなら効かない。
- **章の締め**: 「もう一度、いっていただけますか?」とトムが尋ねると、テオはにやりとした。「わたしがいいたいのは、君たちが表面上いかなる振る舞いを身につけようと、その先ずっと従来と異なるリーダーでいられるわけではない、ということなんだ。リーダーとして成功したいのなら、まずもっとも重要なこととして、『いかに見るか』── 自分自身を見つめて、自分が影響を与えている相手を的確に見ない限りは ── を習得する必要がある」
## キーワード
- **自己欺瞞**: 文字通り自分を欺くこと。自分自身が見えなくなり、他の人びとを見る目も歪む状態。
- **箱**: 自己欺瞞のザグラム社内での呼び名。
- **いかに見るか**: リーダーが最初に習得すべきもの。自分自身を見つめ、自分が影響を与えている相手を的確に見ること。
- **相手を責めて守りに入る**: 自分の望む結果を決してもたらさない反応パターン。