<!-- pages: part1 12 --> # 1章 「君たちには問題がある」 ## 中心主張 新任リーダー二人(トム・コーラム、アナ・リヴェラ)に対して、幹部テオドール・ジェファーソンが開口一番「君たち二人には問題がある」と告げる。その問題とは業績や部門間対立といった表面的なものではなく、『自己欺瞞』と呼ばれる、あらゆる組織の機能不全の根っこにある問題である。そしてテオ自身も同じ問題を抱えていると認めるところから、物語が始まる。 ## 論の展開 - 二日にわたる新任リーダー向けの非公開オリエンテーション。トムとアナは、テオが座長のミーティングがこんなふうに始まるとは想定外で、あっけにとられる。 - トムは前職をクビになってから4ヶ月、アナは開発部・営業部の対立の当事者。二人とも「自分の側には問題がない」という前提で身構えている。 - テオは、二人が想定していた議題(合併、販売目標、在庫、売り上げ)よりも「はるかに大きな意味を持っている」問題があると宣言する。 - トムは反発し「簡単な解決法はない」と皮肉を返すが、テオは「解決できないとはいっていない。ただ、その本質はほぼ必ずといっていいほど誤解されている」と受け流す。 - 問題の名前が明かされる ── 『自己欺瞞』。二十年前、この問題のせいで危うくザグラム社がばらばらになるところだった。 - テオが「わたしも同じ問題を抱えているのでね」と自分を含めたところで、トムはうなずいて目を合わせる。 ## 実践指針 - 部下や新任リーダーに問題を指摘する場面では、業績や振る舞いの表層ではなく、その根っこにある認識の問題を名指しせよ。 - 相手に「あなたには問題がある」と告げる場面では、必ず「わたしも同じ問題を抱えている」と自分を同じ土俵に置け。そうしない限り相手は防御に入る。 - 問題を指摘された場面では、「簡単な解決法はない」と皮肉で受け流したくなるが、それ自体が防御である ── まず話を最後まで聞け。 - 組織の機能不全(イノベーションの停滞、部門間の非協力)を扱う場面では、施策ではなく人の認識を疑え。振る舞いの是正だけでは根が残る。 - 二つのチームの折り合いをつける場面では、どちらの言い分が正しいかではなく「互いにうまく折り合いを付ける最適なやり方」を探る問いに切り替えよ。 ## 根拠となる研究・事例 - **オリエンテーション冒頭の宣言**: テオが「君たち二人がここザグラム社で成功したいのなら、取り組むべき問題が」と切り出す。トムは前の職場をクビになってから今日までの四ヶ月間に起きたことが走馬灯のように駆け巡り、椅子のアームレストをぎゅっと掴む。アナは顔から血の気が失せ、茶色い瞳がテオのメタルフレームの眼鏡からトムの無表情な顔へと動く。→ 結果: 二人とも「自分が呼び出された理由」を身に覚えのある失点で埋めようとする。→ 示唆: 問題を指摘された人間の第一反応は、原因の外部化か自己防衛であり、そのままでは中身が入らない。 - **「合併より重大だ」**: テオは、トムの抱えている問題は合併より重大であり、アナのチームがぶち上げた野心的な販売数達成よりも、在庫目録をめくって売り上げ目標を達成するのと同じくらい重要だと言う。→ 結果: 二人が想定していた議題がすべて格下げされる。→ 示唆: 経営課題として認識されている項目の上位に、認識の問題が置かれている。 - **ザグラム社の二十年前の危機**: 『自己欺瞞』と呼ばれる問題のせいで、二十年前には危うくザグラム社がばらばらになるところだった。当時の最高経営責任者はルー・ハーバートで、彼とそのチームは、かろうじて事態を好転させることができた。→ 結果: 会社は生き延び、以来この問題への取り組みが会社の主たる戦略的優先課題になった。→ 示唆: 自己欺瞞は理念の話ではなく、企業の存続に関わる実務課題として扱われている。 - **テオの自己開示**: 「なぜなら、わたしも同じ問題を抱えているのでね」→ 結果: トムはそこで初めてうなずき、テオと目を合わせて、にっこりした。→ 示唆: 指摘者が自分を例外に置かないことが、対話が始まる唯一の条件になっている。 ## キーワード - **自己欺瞞(じこぎまん)**: あらゆる組織の機能不全の根っこにある問題。本書の中心概念。1章では名前だけが提示され、定義は3章以降で展開される。 - **ザグラム社**: 物語の舞台。二十年前に自己欺瞞のせいで崩壊寸前まで行った。 - **ルー・ハーバート**: 当時の最高経営責任者。チームとともに事態を好転させた人物。