# 第4章 ヘンゼルとグレーテル 〜段取りよくプランニングし、困った時に対応できる「リスク管理術」〜
> **収録範囲**: part3内で第1幕〜第9幕+章末「まとめ」まで完結。
## 中心主張
プロジェクトは「やってみないと分からない不確実なもの」であり、リスクはあらゆるところに潜んでいる。だから大きな問題になる前にチームでリスクを洗い出し、発生確率と影響度で優先順位をつけ、いつ動くかのトリガー・ポイントを決めた対応計画を先に用意する。そして対策後は必ず振り返って教訓を得て、リスクを継続的に再評価する。リスクは脅威だけでなく好機(チャンス)でもあり、それを取りに行くことも管理の対象である。
## 実践指針
- **不利な話や不穏な情報を耳にした場面では**、「まだ確定ではない」と流さず、その時点で分かる範囲でリスクとして立てて備えよ。ヘンゼルは立ち聞きした「森に捨てられる」話をその夜のうちにリスク化した。
- **リスクを洗い出す場面では**、1人でなくチーム全員のブレーンストーミング、ステークホルダーへの相談、チェックリスト活用など複数の方法を使い、リスク登録簿(リスク管理票)にまとめよ。
- **洗い出したリスクを扱う場面では**、発生確率と影響度のマトリックスで優先度をつけよ(確率高×影響大=優先度1、確率低×影響大=優先度2、確率高×影響小=優先度3、確率低×影響小=優先度4)。重大かつ回避不能なものから詳細な対応計画を立てる。
- **対応計画を作る場面では**、必ず**トリガー・ポイント**(いつ実行するか)を白黒ハッキリ判定できる形で定義せよ。「①森に連れていかれる時」「②森の中で、きこりに置いていかれる時」のように、YES/NOで判定できる2択にする。
- **リスクを回避できないと判明した場面では**、回避を諦めて発生時対策(コンティンジェンシー・プラン)に切り替えよ。ヘンゼルは「捨てられること」自体は防げないと判断し、「帰り道を確保する」対策に振り替えた。
- **状況が悪化するほど**、リスクの発生率が上がったか・実行すべき状況になったかを継続的にモニタリングせよ。
- **リスク対応を実行した後は**、必ず振り返れ。①発生確率や影響度の予想と実際の差はどれくらいだったか ②対応策によりリスクは軽減したか ③対応策のコストや時間は問題なかったか。
- **前提条件が変わった場面では**(継母が代わりに森へ連れて行く、など)、新たなリスクが生まれたとみなしてリスクを再評価せよ。「対応策を変更する必要はあるか」「トリガー・ポイントに変更はないか」「対応する資源は十分にあるか」を自問する。
- **計画を変更せざるを得ない場面では**、その場の思いつきで代替せず、適切な手続き(関係者や上司への相談・検討・承認)を踏め。パンくずへの差し替えは承認なき変更であり、二次リスクを生んだ。
- **「前回うまくいったから今回も」と思った場面では**、1回目と2回目の相違点を検証せよ。同じ計画を再利用する前に前提の差分を確かめる。
- **状況が曖昧で次の一手が見えない場面では**、「ということは?」を繰り返して問い、曖昧を排除して具体的な行動に落とせ。「食糧がない → ということは、資源の確保が必要 → ということは、体力を消耗しない注意が必要」と展開する。
- **原因を追う場面では**、「なぜ?」だけで止めず「だから?」「どうやって?」も併用し、未来志向・建設的にトラブルを解決せよ。
- **問題を見つけた場面では**、独りで抱え込まずチームへ報告・共有せよ。「問題ないことが問題だ」「問題を隠すことが問題だ」という価値観をチームで共有し、問題を早く出せるルールと体制をつくる。
- **好機(チャンス)が現れた場面では**、脅威対策と同じ熱量で取りに行け。対応は4つ——活用(資源投入で確実に活かす)/共有(最も活かせる第三者に任せる)/強化(発生確率や影響度を大きくする)/受容(普通に受け入れる)。
- **役割を割り当てる場面では**、自分の得意・不得意とメンバーの適性を把握し、できないことは率直に伝えて任せよ。ヘンゼルは自分では魔女を倒せないと判断し、グレーテルに分かりやすく依頼した。
## 根拠となる事例・考え方
第1幕。きこり(プロジェクトスポンサー)と継母が「子供を森に捨てる」計画を決める。教訓は「同じ方向を向いていないと失敗に向かう」。継母の目的は「自分たちの幸せ」、きこりの目的は「家族4人の幸せ」で、**ステークホルダー間に共通認識がない**。重要なステークホルダーと目的・目標を共有できていないプロジェクトはそもそも成立せず、失敗する。
第2幕。ヘンゼルはリスク(森で捨てられる/帰れず死ぬ)を特定し、発生確率「極めて高い」・影響度「非常に高い」と評価。回避不能と判断し、白く光る小石をマイルストーンにする**コンティンジェンシー・プラン**を作り、トリガー・ポイントを2つ定義した。第3幕でその通りに実行し、無事帰宅——リスク対策は有効だった。
第3幕末の教訓「やったことを確認する」が重要。ヘンゼルは帰宅後に振り返りをせず、**リスクの再評価をしなかった**。継母ではなくきこり本人が連れて行くという前提変化にも対応しなかった。
第4幕。翌日また森へ。急だったため小石を準備できず、ヘンゼルは慌てて手近なパンをちぎってマイルストーンに差し替えた。教訓「変更は失敗の元」——目印として使ったものが小石からパンくずに変わり、「パンくずを落とす」というリスク対策を実行した結果として**二次リスク**(鳥に食べられる)が発生した。変更には必ず正当な手続き・影響分析・承認が必要で、その内容と理由をチームに知らせなければならない。
第5幕。パンくずは食べられ、マイルストーンを失って迷走。教訓「予定通りいかないのが大前提」——主な原因は、間違った仮定をしたことと、知っていることと知らないことを混同したこと。
第6・7幕。ヘンゼルは「ということは?」を繰り返して曖昧な現状を具体化し(資源確保が必要→体力消耗に注意→2人で協力)、抱えていた問題をすべてグレーテルに共有した。グレーテルは不安に問い返した上で「一緒に頑張ろう!」とコミットし、率先して住人探しを提案した。教訓は「問題歓迎の文化をつくる」。担当者が独りで抱えると解決を遅らせ、他メンバーの作業も止める。
第8幕。お菓子の家=**好機(チャンス)としてのリスク**。ヘンゼルとグレーテルは泊まらせてもらうことで体力を回復し食糧を確保(=活用)、さらに魔女という脅威に対して「太っていないことを証明して騙す担当(ヘンゼル)」と「かまどの火を起こす担当(グレーテル)」を割り当て、脅威を軽減しつつ宝石という好機を取りに行った。図表「チャンスに対するリスク対応策」=活用/共有/強化/受容。
第9幕。魔女を倒し宝物を得て帰宅。教訓「できる人に気持ちよく助けてもらう」。まず自分のできること・できないこと・得意・苦手を理解し、メンバーの経験や得意を観察して適性を把握する。ヘンゼルは自分が魔女を倒せないことをグレーテルに分かりやすく伝え、誤解のないよう密かに依頼し、「グレーテルなら退治できる」と信じていたと事後に伝えた。他人の方がうまくできる仕事はその人に任せる方がプロジェクト全体としてうまく回る。
章末「まとめ」9項目(原文): ステークホルダー間の共通認識/早い段階でのリスク洗い出しと対策/リスク対策の振り返りと継続的再評価/変更時は適切な手続き/多角的な情報収集と客観的分析/「ということは」で曖昧を排除/「問題ないことが問題だ」の共有/好機のリスクの活用/話し合い助け合ってメンバーの力をフルに活かす。
## キーワード
- **リスク**: 不確実性がもたらす、プロジェクトに影響を及ぼす可能性のある事象。脅威(マイナス)と好機/チャンス(プラス)の両方を含む。
- **リスク登録簿(リスク管理票)**: 洗い出したリスクを一覧化して管理する文書。
- **リスク発生確率と影響度マトリックス**: 発生確率(高/低)×影響度(大/小)の2×2で優先度1〜4を決める道具。確率高×影響大が優先度1。
- **コンティンジェンシー・プラン(発生時対応計画)**: リスクが実際に起きた場合に備えて事前に用意する緊急時対応計画。
- **トリガー・ポイント**: 対応策を実行に移す判断の起点。白黒ハッキリ判定できる具体的な条件として定義する必要がある。
- **二次リスク**: リスク対応策を実行した結果として新たに発生するリスク(パンくずが鳥に食べられる)。
- **マイルストーン**: 進捗を確認する中間目印。ここでは帰路を辿るための小石/パンくず。
- **リスク回避 / 軽減**: 発生自体を防ぐのが回避、発生時の影響を小さくするのが軽減。
- **チャンスに対するリスク対応策4種**: 活用(資源投入で確実に得る)/共有(最も活かせる第三者に任せる)/強化(確率・影響度を大きくする)/受容(普通に受け入れる)。
- **ステークホルダー**: プロジェクト関係者。共通の目的・目標を持てないとプロジェクト自体が成立しない。
- **「ということは?」**: 曖昧な状況を具体的な対策・行動に落とすための反復質問。「なぜ?」に加え「だから?」「どうやって?」も併用する。