# 第1章 3匹の子ブタ 〜プロジェクトを成功に導く「段取り」〜(第1幕〜第15幕途中) 扱う童話: 3匹の子ブタ。母ブタ=プロジェクトスポンサー兼ステークホルダー、3匹の子ブタ=プロジェクトメンバー、「家づくり(実家追い出し)プロジェクト」=有期性・独自性のあるプロジェクト、オオカミ=リスク。 **中心主張**: 「段取り八分」。プロジェクトの成否は着手前の段取りでほぼ決まる。藁の家・木の家の兄ブタは「とにかく始めよう」で見切り発車し、目的も要求もスコープも定めないまま最速・最安を選んだ結果、間違った目標に正しく努力してしまった。末っ子ブタはステークホルダーの期待確認 → 目的の明確化 → 憲章 → WBS → 役割分担 → 見積り → ネットワーク図 → ガントチャート → 負荷調整 → リスク管理という順で計画を積み上げ、成功のシナリオを持って着手する。 **実践指針** - 仕事を任された場面では、まずそれがプロジェクト(独自性・新規性・有期性がある)かルーチンワークかを判別せよ。プロジェクトなら PDCA ではなく「立上げ→計画→実行→終結(+全体を貫く監視・コントロール)」で回せ。 - 「とにかく始めよう!」と言いたくなった場面では止まれ。それは失敗の代表的原因(目的・目標が曖昧/資源不足/納期が短すぎる/作業漏れ・見積りミス/リスク対応不足)の入口である。 - 計画がまだ立てられない場面では、計画を放棄せず「できる範囲で立てて、進みながら段階的に詳細化」せよ。立てないことは失敗する計画を立てることと同じ。 - ステークホルダーが誰か曖昧な場面では、権力(影響度)と関心度の2軸マトリックスで分類し、対応を変えよ。高権力×高関心=最大限の努力で注意深く対応、高権力×低関心=要求を満たし満足を保つ、低権力×高関心=常に情報共有、低権力×低関心=最小限のモニター。 - 要求が分からない場面では、遠慮せずスポンサーに聞きに行き、聞き取った内容を必ず**要求事項文書**として記録に残せ。相談は失敗確率を大きく下げる。 - プロジェクト開始時で全容が見えない場面では、木より先に森を見よ。10の知識エリア(統合・スコープ・スケジュール・コスト・品質・資源・コミュニケーション・リスク・調達・ステークホルダー)に沿って情報収集し、グレーゾーンを潰せ。 - 目的が共有できていない場面では、7つの質問に答えさせよ(何のために/なぜ今/何をもって完成・成功か(判断基準)/優先されるのはスケジュール・コスト・品質のどれか/目標は5W1Hで文章になっているか/体制・手順・方法を決めているか/記録を残そうとしているか)。 - 計画着手前の場面では、キックオフミーティングを開け。目的・背景・ニーズ・目標・成功基準・体制・情報伝達のルールを全員で共有し、共通認識と一致団結を作る。最後にスポンサーからGOサインをもらってから進め。 - スコープが曖昧な場面では、スコープ記述書で「何をどこまでつくるか」を定義し、WBSでツリー状に分解して見積り可能な単位(最下層=ワークパッケージ)まで落とせ。要素成果物の漏れに注意し、各要素の作業内容は**WBS辞書**に書け。 - 人が足りない場面では、実行開始前に役割分担表をつくれ。作業ごとの必要スキル・人数・技術レベル・経験・必要期間・コストを洗い出し、複数人で担当しても責任者は必ず1人にせよ。人員確保は容易ではないので、部署の責任者や上司との交渉は早めに、遠慮せず政治的にも動け。 - 自分が詰まっている場面では、「何ができないか・何が難しいか」を具体的な言葉にして開示せよ。抽象的な「大変です」では助けようがない。具体化した瞬間に協力が集まる(末っ子はレンガの調達で詰まり、独り言を聞いた母から調達先を紹介された)。 - 期間を見積もる場面では、作業量(1人で担当した場合に終えるのに必要な時間)と所要時間(カレンダー上で終わるまでの時間)を必ず区別せよ。土日・他作業の割り込みで所要時間は延びる。 - 見積り手順は、①過去の類似作業(参考情報)を確認 → ②参考情報と有識者の助言から作業量を見積る → ③合計作業量を出す → ④可変時間作業か固定時間作業かを見分ける → ⑤特性を踏まえて所要時間を出す。人を増やせば縮む作業(レンガ積み=可変時間作業)と、増やしても縮まない作業(設計図を描く=固定時間作業)を混同するな。 - 作業順序を決める場面では、ネットワーク図で前後関係(依存関係)と並行関係を可視化せよ。順序を無視すると手戻りと待ち時間が発生する。抜け漏れや「もっと前工程でやるべきだった作業」もここで見つかる。 - スケジュールに余裕がないと感じる場面では、クリティカル・パス(最初から最後までで最も時間のかかる経路)を特定せよ。その経路上の遅れはプロジェクト全体の遅れに直結するので重点監視し、余裕(フロート)のある経路の担当者にサポートを依頼せよ。メンバー自身も自分の作業がどの経路にあるかを把握しておけ。 - 進捗を共有する場面では、ガントチャート(作業一覧+責任者+開始日・終了日+ステータス+横棒)で視覚化せよ。スケジュールを立てるとは「投入する資源によりスケジュールが決まる」ではなく「確保できるメンバーで、その期間内に成果を出す方法を考える」こと。資源追加は解決策にならない(ただし期限死守のため人を足すことはある)。 - 特定の人に作業が集中している場面では、負荷率(1日8時間=100%)を計算して可視化し、100%超が続くなら開始時期をずらす・他のメンバーに振るなどチームで調整せよ。負荷集中は本人の心身を削るだけでなく、その人の遅れがプロジェクト全体の遅れになる。 - 状況が変わった場面では、リスクを再評価せよ。リスク管理は計画時の一度きりでは不十分。前提条件や制約条件が変われば新たなリスクが生まれる(「オオカミは襲ってこない」という前提が崩れた)。 **根拠となる事例・考え方** - プロジェクトの定義: 独自性・新規性があり、開始日と終了日が決まっている(有期性)仕事。ルーチンワークは反復して改善するPDCAで回るが、プロジェクトは詳細が不明な中で計画→実行→再計画→実行を繰り返す必要がある。PDCAとの違いは①計画の前に立上げ(目的・目標・内容の設定)がある ②実行後に再計画し、進捗と実績を測定して適切にコントロールする ③終結時に成果と進め方を記録し教訓として次に活かす、の3点。 - 兄2匹の失敗構造: 一番上は「家をつくること」だけに集中し目標設定も計画もゼロ。二番目は「藁より丈夫な木の家」という相対的目標でスタートし、何が求められているかを母に確認しないまま完成させた。両者に共通するのは、母(スポンサー)が期待する「オオカミから守れる頑丈さ」というスコープ・品質要求を知らず、納期とコストを優先したこと。 - プロジェクト憲章の主な内容: 目的と投資効果/測定可能な目標および成功基準/関係者からの要求事項/現時点で明らかなリスク・制約条件・前提条件/大まかなスケジュールと概算見積り/主なステークホルダー情報/PMの氏名・責任と権限/最終承認者の氏名。 - リスク管理の流れ: ①チーム全員で目標と計画を確認しリスクを洗い出す(ブレーンストーミング/ノミナル・グループ/デルファイ法/「この作業をする時に日程・コスト・スコープ・品質・資源・技術・契約の面で問題はあるか?」と常に問う)→ ②発生確率と影響度で定性的に分析し優先度を決める(高確率×大影響=優先度1で予防対策と発生時対策の両方、低確率×大影響=優先度2で発生時対策、高確率×小影響=優先度3でその都度判断、低確率×小影響=優先度4は無視可)→ ③対応策を計画する(回避=発生させない/転嫁=責任をとってもらう/軽減=発生確率や影響度を小さくする/受容=積極的または消極的に受け入れる)。誰がいつ何をどう対応するか、実行のトリガー・ポイント、WBSへの対策活動追加、定期的な再評価と教訓化まで含める。 **キーワード** - **有期性 / 独自性・新規性**: プロジェクトを日常業務と分ける2条件。 - **立上げ→計画→実行→終結+監視・コントロール**: プロジェクトの基本フェーズ。 - **ステークホルダー**: プロジェクトの重要な関係者(スポンサー、顧客、ユーザー、納入者、PM、プロジェクトチーム、機能部門マネジャー、ビジネスパートナー等)。 - **ステークホルダー分析マトリックス**: 権力(影響度)×関心度の2軸で関与方針を決める道具。 - **プロジェクト憲章**: プロジェクトを公式に認可し、目的・目標・成功基準・PMの権限などを定める文書。 - **成果物スコープ/プロジェクト・スコープ**: 最終的に生み出すモノと、そのために必要な作業と範囲。 - **WBS(ワーク・ブレイクダウン・ストラクチャー)**: 必要作業をツリー状に階層分解し、見積り可能なレベルまで細分化した図。最下層の詳細作業が**ワークパッケージ**、各要素の説明が**WBS辞書**。 - **アクティビティ**: WBSをさらに分解した細かい具体的作業。 - **作業量 / 所要時間**: 1人で終えるのに必要な時間 / カレンダー上で終わるまでの時間。 - **可変時間作業 / 固定時間作業**: 投入資源を増やせば短縮できる作業 / 増やしても短縮できない作業。 - **ネットワーク図**: 作業の前後関係(依存関係)と並行関係を矢印でつないだ図。 - **クリティカル・パス**: 最初の作業から最後の作業までで所要時間の合計が最も長い経路。ここの遅れが全体の遅れになる。 - **フロート**: クリティカル・パス以外の経路が持つ余裕時間。 - **ガントチャート**: スケジュールを横棒で視覚化し、進捗状況を共有する表。 - **負荷率**: 1日の標準稼働(8時間)に対する作業量の割合。100%超が続く状態は要調整。 - **定性的リスク分析**: 発生確率×影響度でリスクの優先度を決める手法。 - **リスク対応策**: 回避・転嫁・軽減・受容の4分類。 - **トリガー・ポイント**: リスク対策を実行に移すタイミング。 (part2に続く)本分冊は第15幕【教訓】みんなでリスクに気を配る の途中、「定性的リスク分析」および「脅威に対するリスク対応策」の図で終わっている。残る第16幕【教訓】優先順位を考えて、スケジュールを短縮する、第17幕【教訓】助け合うとプロジェクトの失敗を減らせる、および章末まとめは part2 に収録。