# 第5章 生産性を高めるチームビルディング ―「サーバントリーダーシップ」「自己組織型チーム」へ(part3に続く)
**中心主張**: マイクロソフトのような超速で進化するソフトウェア組織を支えているのは、上司が指示し部下がそれに従う「コマンドアンドコントロール」型のマネジメントではなく、リーダーがビジョンとKPIを示すだけでメンバーが主体的に意思決定する「サーバントリーダーシップ」と、10人以下の小さなチームが自律的に動く「自己組織チーム」の仕組みである。この転換は、メンバーを「子供扱いされる社員」から「大人として扱われるステークホルダー」へと位置づけ直すことでもある。
**論の展開**:
- 本章はマネジメントスタイルの日米比較から始まり、2001年のアジャイル開発登場以降、ソフトウェア開発の世界的なパラダイムが「コマンドアンドコントロール」から「サーバントリーダーシップ」へ大きく転換してきたことを示す
- サーバントリーダーシップの起源として、ロバート・K・グリーンリーフの1970年のエッセイ『The Servant as Leader』に触れ、「リーダーはビジョンとKPIを示すが、実際にどう動くかはチームが主体的に考えて意思決定する」という定義を提示する(図14)
- 著者自身のマイクロソフト入社前後の驚きを語る形で、巨大企業の組織全体がこのスタイルで動いており、現場メンバーがかなりの権限を与えられていることを具体的に描写する。他の外資系企業に勤める友人への取材からも、指示型(オールドファッション型)のマネジメントは減少傾向にあることを補足する
- ロッシェル・カップの著書を引きつつ、日本企業がメンバーを「社員(管理・監督が必要な存在)」として扱うのに対し、サーバントリーダーシップ制ではメンバーを「ステークホルダー(大人であることが前提、探求し疑問視する存在)」として扱う対比を図15で提示する
- 日本企業とマイクロソフトの規則の量そのものを比較し、「○○するときは必ず上司の許可を得る」式の細かいルールに縛られる日本企業と、専門家として大きな裁量権を与えられ規則は最小限にとどめるマイクロソフトの対比を、著者の実体験と友人の証言を交えて描く
- 続いて「自己組織チーム/フィーチャーチーム」という具体的な組織構造に話を進め、生産性の高いチームの三つの特徴(生産性が高い・エンゲージメントが高い・よりよいソリューションが選択されやすい)を示す
- 自己組織チームの具体像として、IC(Individual Contributor=開発者)それぞれが個人商店のように責任を持って設計・実装し、10人以下の小さなチーム同士がペアなどを通じて連携する構造を図16で説明する
- 章の終盤(part2の末尾)では、マネージャのダミアン(Damian)が1on1で必ず「仕事を楽しんでいるか?」と確認する文化を紹介し始めたところで記述が途切れる。日本の「仕事は我慢してなんぼ」という前提との対比が展開されつつあり、続きはpart3に持ち越される
**実践指針**:
- チームを設計するときは、マネージャが細かく指示するのではなく、ビジョンとKPIだけを明確に示し、実行方法はメンバー自身に委ねよ
- メンバーを「監督・管理すべき社員」としてではなく「ビジョンに基づき自律的に動くステークホルダー」として扱う運用に切り替えよ
- 組織のルールは「○○するときは必ず上司の許可を得る」式に細かく縛るのではなく、専門家としての裁量権を大きく与え、規則は最小限にとどめよ。セキュリティなど本当に必要な統制だけを行動規範教育コースのような形で担保せよ
- 大規模プロジェクトであっても、10人以下の小さな自己組織チームに分割し、各チームが自ら意思決定しながら他チームと連携する構造をとれ
- 開発者(IC)それぞれに、個人商店のような感覚で担当領域の設計・実装への責任を持たせよ
- タスクの割り振りもチーム自身に任せ、メンバー各自が「自分がやるよ」とやりたい仕事を選択していける環境をつくれ
- マネージャは1on1などの場で、業務の進捗管理だけでなく「仕事を楽しんでいるか」を定期的に確認し、メンバーのエンゲージメントを高める役割を担え(この項目は次分冊でさらに展開される見込み)
**根拠となる研究・事例**:
- ロバート・K・グリーンリーフ『The Servant as Leader』(1970年発表のエッセイ): サーバントリーダーシップという考え方の原典 → 示唆: この概念自体は目新しいものではなく、半世紀以上前から存在する古典的な思想である
- 著者自身のマイクロソフト入社時の驚き: 入社前はアジャイル/DevOpsのコーチとしてサーバントリーダーシップ的な概念に馴染みがあったが、実際に巨大な会社組織全体がそのスタイルで動いていたことに驚いた → 示唆: サーバントリーダーシップは理論だけでなく大企業でも実運用可能な仕組みである
- 他の外資系企業に勤める著者の友人への取材: 指示型(オールドファッション型)のマネジメントは減少傾向にあり、ビジョン・戦略・KPIの3点は明確に示されるが、それをどう実行するかは各自が考えるスタイルが増えているという証言を得た → 示唆: サーバントリーダーシップは一企業に限らず、業界全体で広がりつつある潮流である
- ロッシェル・カップ著『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』(クロスメディア・パブリッシング)からの引用(図15): 社員とステークホルダーの扱いの違いを、監督の要否・時間ベースか結果ベースか・知識を独占するか他者の成功を助けるかなど複数の観点で対比 → 示唆: モチベーションの低さは個人の資質ではなく、組織が社員をどう位置づけているかに起因する
- 日本企業とマイクロソフトの規則量の比較: 大企業に勤める著者の友人は「事業部長クラス」でも自分のPCを自由に使えず、たかだか100万円の決裁権すらないと嘆いていた。一方マイクロソフトでは「○○するときは必ず上司の許可を得る」式の細かいルールはほとんどなく、セキュリティ対策のような本当に必要な統制はBusinessConductという行動規範教育コースへの参加義務という形で担保しつつ、各人にクラウドのアーキテクチャ設計・実装・テストまで判断する大きな裁量権と専門家としての敬意が与えられている → 示唆: 規則でガチガチに縛るマネジメントは、個人の主体性と生産性を奪う
- 図16「自己組織チームの概略図」: 組織内のチームは10人以下で構成され、マネージャ1名と複数のIC(開発者)からなり、一部のICはペアで別チームとの連携を担う。マネージャからアサインされるタスクは各ICが明確化し実装する。大規模プロジェクトであっても、この10人以下の小さなチームが互いに連携を取り合いながら進める構造になっている
**キーワード**:
- サーバントリーダーシップ: リーダーがビジョンとKPIを示し、実行方法はチームが主体的に意思決定するマネジメントスタイル
- コマンドアンドコントロール: マネージャが部下に指示を出し、部下がそれに従う従来型のマネジメントスタイル
- 自己組織チーム/フィーチャーチーム: 10人以下で構成され、自ら考えて意思決定しながら開発を進める小規模チーム
- IC(Individual Contributor): 個人商店のように担当領域の設計・実装に責任を持つ開発者
- ステークホルダー(社員との対比概念): 大人として扱われ、探求し疑問視することを期待される、サーバントリーダーシップ制における組織メンバーの位置づけ
- BusinessConduct: マイクロソフト社員に義務づけられている行動規範教育コース。規則を最小限にしつつ、必要な統制だけを担保する仕組みの一例