# 第4章 何を話すべきではないのか? こんな雑談は危ない! 6つのNGポイント 〜相手との関係性次第でタブーは決まる〜
## 中心主張
雑談に「誰にでも共通する絶対のタブー」は存在しない。何を話してよいかは**相手との「関係性」次第**で決まる。したがってNGリストを暗記するのではなく、「何を聞かない方がいいか?」を相手との関係性の長期的な目線から**合理的に判断する**能力こそが必要になる。ただし最低限のマナーとして、相手を不快にさせうる発言を避けるための6つのNGポイントは押さえておくべきである。
## 実践指針
- **雑談のタブーを判断する場面では**、「これは誰にでもNG」と決めつけず、**相手との関係性を長期的な目で見ながら**「何を聞かない方がいいか?」を合理的に判断せよ。相手が男性であれ女性であれ同じ。
- **セクシャリティの話題に触れる場面では**、相手が交際を始めたばかりの恋人であればタブーではない。互いの考え方を伝え合い共有することは関係性を深めるのに不可欠だから。ただしビジネスの場ではまったく別で、遠ざけることが「思いやり」であり「マナー」になる。
- **チーム内で異性メンバーと雑談する場面では**、「軽い気持ち」「特別な意図はない」を免罪符にするな。女性メンバーがその場で笑って済ませても、トラブルが起きた時に「そういえば、あの時、あんなことを聞かれたな」と明確な**セクハラ発言**として思い出される。それは「火ダネ」になり、双方にとって不幸である。
### NG 01: 相手のプライベートに、いきなり踏み込まない
- **相手を知ろうとする場面では**、「ご結婚はなさっていますか?」のような質問を気軽に投げるな。想定されるリスク:
- 相手は独身であることに悩んでいるかもしれない
- 結婚に興味がない人かもしれない
- 同性愛者のため、日本で法的な結婚ができなくて困っているかもしれない
- 配偶者と上手くいっていないかもしれない
- 離婚したばかりかもしれない
- **本人に「そんなつもり」がなくても受け取り方は千差万別**。誰もが円満な家庭を築いているとは限らない。
- **共通点を探したい場面では、質問のアングルを変えよ**。
- 「休日は何をされていますか?」→ ストレスなく答えられる。「子供と一緒に公園で遊んでいます」という答えが返れば、そこから「お子さんは、おいくつですか?」と質問を重ねて無理なく情報を得られる。
- **社内で相手がプライベートを自己開示してきた場面では**、いきなり踏み込まないのがマナー。例: 女性メンバーが「昨夜は飲みすぎました」と話した場合、「誰と飲んだの?」ではなく「**何を飲んだの?**」と質問して雑談を始めよ。
- 「大学時代の友人と、日本酒を飲みました」と自己開示してくれたら、その話に乗れば女性メンバーの実体験を自然に聞ける。
- ここで「相手は男なの? 女かな?」と聞くのは何の意味もなく、プライバシーへの過干渉。相手が出してきた「キーワード」を拾って質問を重ねれば、自然な雑談で相手を知れる。
### NG 02: 「ファクト」ベースの質問は意外に危険
- **相手の経歴に触れる場面では**、「大学はどちらですか?」「こちらの会社の前は、どこにお勤めでしたか?」といった**ファクト(事実)ベースの単刀直入な質問**を避けよ。相手の気持ちにネガティブに刺さる可能性がある。
- 希望した大学に合格できなかったことをずっと引きずっている人、前職をリストラされて忸怩たる思いをしている人がどこの会社にも必ずいる。
- **相手の仕事観を知りたい場面では**、「商社マンとして、何を大切にしているのですか?」「銀行マンの仕事の醍醐味は、どのあたりにありますか?」のように、**「価値観」ベース・「信念」ベース・「期待」ベース**で聞け。このリスクはゼロである。
### NG 03: ビジネスの場で「収入」の話はしない
- **同じチームのメンバーであっても、年収を聞くな**。日本のビジネスマンで「あなたの年収はいくらですか?」と無遠慮に聞く人はいないが、それは海外のビジネスマンでも同じ。
- 日本企業では他人の「懐事情」を詮索するのは不躾な行為とされ、海外企業・外資系企業では「**ご法度**」とされている。マナーとしてだけでなく、給料やボーナスの額を明らかにすることを雇用契約や就業規則で禁止している企業が多い。
- **なぜ海外ではより厳格か**: 新卒入社が中心の日本企業と違い、海外企業は中途採用が大半のため、優秀な人材には企業が大枚をはたく。同じチームで働いていても**極端な「賃金格差」**が生じている。互いのモチベーションを保ち無駄な軋轢を避けるため、年収は聞かないのが不文律。海外でも日本でも収入の話題は避けるのが無難。
### NG 04: 「シチュエーション」を考えた雑談を心がける
- **場所が変わる場面では、「オン」と「オフ」の極端な落差を作るな**。著者は、当たり障りのない無難な雑談をしていた日本のビジネスマンが、飲み会の場になると急に「ド直球」のプライベート質問を始めることに何度も驚かされている。
- **居酒屋など隣に人がいる場面では**、「ピョートルさん、日本の女の子は好きですか?」といった質問をするな。衆人環視の状況下でこんな質問をされる人の気持ちを考えたことがあるのか。無神経な振る舞いは相手からの信頼感を大きく揺さぶる。
- 「**壁に耳あり、障子に目あり**」「油断大敵」という心構えは、ビジネスマンの基本中の基本。
- **社内の噂話をする場面では特に注意せよ**。隣に座っているのは明日の新規獲得を目指す担当者かもしれず、自分のボスの友達が向かいの席にいるかもしれない。
- 著者の実体験: グーグル時代の元チームメンバーが経営している会社に入社したばかりの2人が、隣の席で会社のウワサ話をしていた。「あの人はこうだ」「アイツはダメだ」という話の登場人物は、ことごとく著者の知り合いだった。
- こんなことで会社の評判を落とすのは、元メンバーとしてだけでなく同じ会社経営者としてやりきれない気持ちになる。
- **シチュエーションを考えて雑談することは、相手に対する最低限のマナーであり、ビジネスマンとしての義務でもある。**
### NG 05: 「宗教」の話は無理に避ける必要はない
- **海外の相手と雑談する場面では**、「宗教の話は避けるべき」と考えるな。著者はそれが正解とは考えていない。中途半端な知識を披露したり是非を議論するのは問題外だが、雑談を通してきちんと話をする必要がある。
- **理由**: 相手がイスラム教の人ならお祈りの時間とビジネスが重なった場合の対応、ヒンドゥー教の人なら基本的に肉を食べないという事実を、ランチや会食の前に事前にチェックしておく必要があるから。
- **食事に誘う場面では**、宗教についてダイレクトな質問をするのではなく、
- 「**食べられないものはありますか?**」
- 「**お酒は飲みますか?**」
- 「**どのような日常を過ごしていますか?**」
と聞け。知りたい情報を得つつ、不快な思いをさせずに済む。
- 「ビジネスの場だから宗教の話はNG」なのではなく、**相手を尊重して、聞くべきことはきちんと聞く**という姿勢が大事。
### NG 06: 「下ネタ」で距離感が縮まることはない
- **下ネタで距離を縮めようとするな**。「男性同士なら下ネタで距離感が縮まる」「その場に女性がいても気にすることはなく、女性も楽しんでいるだろう」と勝手に思い込んでいる人がいるが、**どちらも勘違いであることはすでに世の中の常識**になっている。
- 日本のビジネスマンには雑談で「下ネタ」を話したがる人がいる。中高年層には少なからず生き残っているようだが、その数はさすがに時代と共に減っている。
- **下ネタを話したいのならば**、ビジネスの場ではなく仲の良い友達とすればいいだけのこと。著者は下ネタを話すこと自体が悪いと言っているのではなく、**話す場所が違う**というだけ。
- 決まりきったパターンの雑談と下ネタの2種類しか雑談のネタを持っていない人は、それだけで信用を失っていることに気づく必要がある。人間らしい素直な会話ができない人は、日本のビジネスマンに少なくない。
### 補足: あえて「雑談をしない」という選択肢もある
- **すでにラポールができている場面では、無理に雑談をするな**。雑談の目的は互いの心理的安全性を高めてラポールを作り、生産性を向上させてアウトプットを高めること。すでに互いが心理的安全性を感じている状況なら、雑談ではなくオペレーションに集中した方が、はるかに成果に近づける。
- **目的意識を共有してその目的に向かった会話ができる状態であれば**、必要な会話は雑談ではなくアジェンダに関する話。それをしっかりしておけば、さらにリラックスして仕事に取り組める。
- **月曜の朝に出社した場面では**、恒例行事のような「定例雑談」(「週末は何をしてました?」)は無用と考えよ。落ち着いた気持ちで、のびのびと仕事ができる状態でダラダラ話しているのは、単なる無駄話。
- **話すことがない場面では、無理に話さなくてよい**。不安になる必要はなく、無理な雑談は仕事のジャマになるだけ。あえて雑談をしないという選択肢を持つことは、周囲との良好な関係が長く続くことにつながる。
## 根拠となる事例・考え方
- **セクハラの構造**: 男性マネジャーと女性メンバーが居酒屋でセクシャリティの話題を持ち出す男性マネジャーがいる。女性メンバーが不快に感じている場合は論外だが、気のおけない関係であっても、将来的に「火ダネ」になる可能性がある。トラブルが起きた時、軽い雑談のつもりの発言が「後になって明確なセクハラ発言に変わる」。互いにとって非常に不幸なこと。
- **著者のグーグル時代の実体験**: 元チームメンバーが経営する会社の新入社員2人が、隣席で会社のウワサ話をしていた。登場人物が全員著者の知り合いだったという事例が、NG04(シチュエーション)の根拠になっている。
- **年収の不文律の背景**: 日本企業=新卒入社中心で部長・課長・係長の給与相場が想像できる/海外企業=中途採用が大半で極端な賃金格差が存在する。この構造の違いが「聞かないのが不文律」を生んでいる。
## キーワード
- **雑談のタブーは相手との「関係性」次第**: 本章の基本命題。誰にでも共通する絶対のタブーは存在せず、関係性が変われば話してよい範囲も変わる。
- **危ない雑談**: 本人に特別な意図がなくても、後になって相手の記憶の中で明確なハラスメント発言に「変わる」タイプの雑談。
- **ファクトベース / 価値観ベース**: 経歴・出身校といった事実を単刀直入に聞くのがファクトベース(相手にネガティブに刺さるリスクあり)。「何を大切にしているか」「仕事の醍醐味は」と聞くのが価値観・信念・期待ベース(リスクゼロ)。
- **質問のアングルを変える**: 危険な質問を避けつつ同じ情報に到達する技法。「ご結婚は?」ではなく「休日は何を?」、「誰と飲んだの?」ではなく「何を飲んだの?」。
- **キーワードを拾う**: 相手が自己開示で出してきた語(「大学時代の友人」「日本酒」など)を起点に質問を重ね、プライバシーに過干渉せず自然に相手を知る方法。
- **ご法度**: 海外企業・外資系企業における収入の話題の扱い。マナー以前に雇用契約・就業規則で禁止されていることが多い。
- **壁に耳あり、障子に目あり/油断大敵**: シチュエーションを考えた雑談を心がけるための心構え。ビジネスマンの基本中の基本。
- **定例雑談**: 月曜の朝の「週末は何をしてました?」のような恒例行事化した雑談。無用な無駄話とされる。