# 第1章 ここが違う! 「世界」の雑談と「日本」の雑談 〜日本のビジネスマンの雑談は世界水準ではない!?〜 **中心主張**: 日本の雑談は「社交辞令」「演技」「決まり文句」の3つで構成され、中身のある情報も自己開示も含まれない。世界の一流は雑談を、目の前の「その人」に特化した自己開示と周到な事前準備によって信頼・信用・尊敬(=ラポール)を築くための戦略的な行為と捉えている。無意味な雑談は「時間」「ビジネスの可能性」「レピュテーション(評判)」の3つを失わせるため、意図がないなら口を開かないほうがよい。 **実践指針** - 定番フレーズ(「お世話になっております」「お疲れ様です」「そうですね」)で会話の3分の1が埋まっていると気づいたら、そこを削って中身に使う - 「今日は暑いですね」で終わらせず、必ず自己開示を足して「その人」に特化した会話に接続する。例:「そうそう、今年の夏は暑いですね。週末は何をしているんですか?」→「私は山が大好きで、休日は家族と山でキャンプを楽しんでいます」 - 自己開示する前に自己認識を済ませておく。①「価値観」何を大切にしているのか? ②「信念」何が正しいと思っているのか? ③「希望・期待」何を求めているのか? もっとシンプルには「何が好き」で「何が嫌い」かを自分に問い続ける - 「好きではない」ことも自己開示する。誘いが重荷なら、それを伝えていない自分に原因がある(相手は好意で誘っている) - 自己紹介で「会社員です」「○○自動車の田中です。大学は慶応です」で止めない。固有名詞を足しても「その人となり」は何ひとつ伝わらない - 相手を知りたいときは質問をひとつ重ねる。「ご家族はいらっしゃいますか?」→「妻と3歳の男の子がひとり」→「普段はご家族とどんな時間を過ごしているのですか?」で、交渉の進め方の手がかりが得られる - 子供好きで忙しい相手を誘うなら「この後、飲みに行きませんか?」ではなく「できるだけ短時間で面談を終えて、早く帰れるようにしましょう」と伝える - 相手の話は良し悪しや好き嫌いで判断せず、「なぜそのように考えているのか?」を肯定的に知ろうとする。予断・偏見・思い込みを捨てればキャッチボールが成立する - 相手がポジティブな気持ちなら継続・強調させる工夫を、ネガティブな気持ちなら軽減させる対応をとる。理解しただけで何も行動しないのは「気が利かない人」の印象を残すだけ - 商談前に必ず調べる:相手先のIRレポート(経営状態・業績・今後の見通し)、SNSでの近況、同僚・友人・知人経由での人物情報、業界ニュース、担当者の家族構成・趣味趣向 - 準備は5つの問いで詰める。どんな情報を求めているのか/何を知りたがっているのか/何を心配し何を不安に思っているのか/どんなプロセスでプレゼンすれば納得するのか/最終決定は誰がするのか - 会議でも同じ準備をする。参加者は誰か/それぞれどんな意見・見方をしているか/この会議で何を聞きたいのか/何が肯定材料・否定材料になるか - 名刺交換の後に紋切り型(「いやぁ、今日は暑いですね」)を出さず、相手の表情・佇まい・服装・仕草を冷静に観察して臨機応変に変える。「お疲れのご様子ですが、何かありましたか?」 - 相手が不安を抱えている状況では、準備した雑談を捨てて相手の気持ちに寄り添う。次に会うときは「その後、息子さんのお加減はいかがですか?」とファクトベースで続ける - 日本人相手にいきなり英語で話し出さない。話すなら「英語で話してもいいですか?」と確認の言葉を挟む - 相手と会う前に「何のために相手に会うのか?」を確認する。今日会う目的は何か/お互いに何が知りたいのか/どんな関係性を作りたいのか/それは短期か長期か/相手は何を理解すれば納得するのか **根拠となる事例・考え方** - 日本語の会話は「お疲れ様です」「お世話になっております」「そうですね」など、ひと通り覚えれば流暢に話せる雰囲気が作れる決まり文句が多く、おそらく3分の1は必要がない - 心理学の**ラポール**の3条件:①お互いに「信頼」できる関係を築く ②お互いが「信用」できることを確認する ③お互いを「尊敬」できる関係を作る。天気や思いつきの世間話でラポールを作るのは不可能に近い - アメリカの心理学者カール・ロジャースの「**無条件の肯定的関心**」。あわせて empathy(エンパシー)は「共感」と訳されるが厳密には、自分と異なる考え方や価値観を持つ相手に「何を考えているのか」「どう感じているのか」を想像する能力であり、隠れた意図を汲み取り相手の感情に合わせることまでを含む - 日本は世界に類がない**ハイコンテクスト社会**。民族の多様性が小さく価値観や慣習が似通うため「以心伝心」「空気を読む」「忖度する」「行間を読む」が成立し、自己開示の必要がなかった。欧米はローコンテクストで、言葉でストレートに情報交換する必要がある - 欧米では5分でも雑談時間があれば積極的に意図を持った会話を交わす。日本より結果主義の傾向が強いからこそ、少しでも意味のある会話をしたいと考えている - 日本のビジネスマンの約50%は事前準備をしていない(著者の個人的印象)。著者を訪ねてくる人の多くは、5分ネット検索すれば分かることも調べず、開口一番「お国はどちらですか?」「和食は好きですか?」と聞く。23年日本にいる相手に対しては無愛想に返したくなるのを我慢するほど - 逆に準備してきた相手が「この本にはこう書かれていたのですが、私はまったく違う見方をしています」と切り出すと、著者は身を乗り出して真剣に聞く。「この人は仕事ができそうだな」「信頼できそうな人だな」と短時間で思わせられる - 欧米で大切にされる英語の名言 "I'd like to finish my work before I start it"(仕事を始める前に、それを終わらせるのが好き)。周到な準備を整えて相手と向き合い、本題の前に仕事を終えてしまうくらいの覚悟で雑談に臨んでいる - ヨーロッパでは大学卒業=それなりの知識がある前提で会話が進む。ドイツやフランスでは成績が悪ければ1年目でも大学を追い出されるため、卒業していれば相当な知識があると見なされる。日本人が「ポーランドって、あるんですか?」「ポーランドは何語ですか?」と聞くギャップに著者は何度も驚かされてきた - 「息子さんがケガをして午前中は半休を取っていた」と聞いたら、準備した雑談より「それはご心配ですね」を優先する。相手のコンディションを度外視して進めても、決していい結果は得られない(そもそも「次」につながる情報はすでに得られている)。野球のグッズを差し出す人もいる - **トランザクション文化**(アングロサクソン系)は、一緒に仕事をしてから「ちょっと、一杯どうですか?」と飲みに行き、その後で付き合いが始まる。飲み会はほぼ「打ち上げ」で、相手は「既存顧客」。日本は**リレーション文化**で、ビジネスが成立する前の段階で「どうぞ、よろしく」と酒を酌み交わし、関係性を深めてから仕事を始めるため「接待」的な意味合いが強くなる - 無意味な雑談で失うもの ①**貴重な「時間」を奪われる**:日本には「奥ゆかしさ」「控えめ」を大切にする文化があるが、ビジネスの場では「時間を無駄にする質問」になり、「時間の無駄だったな」と思わせたらビジネスそのものが失敗に終わる ②**ビジネスの「可能性」がなくなる**:役職が上になるほど「最新の情報」「価値のある情報」「他では聞けないような情報」を切実に求めており、「刺さる」会話ができなければ「お話はもう結構です」と途中で席を立たれてチャンスは消滅する ③**「レピュテーション」(評判)をなくす**:逆に「興味深い」「役に立った」「価値がある」「もう一度お会いして話が聞きたい」と思わせられれば好循環が生まれる - 著者の考える理想の雑談は「お互いに学びのある情報を交換して、信頼関係を結ぶためのプロローグとなるような会話」。初対面では表情・ファッション・話し方・目の動かし方・所作を手がかりに「この人は、こういう人かな?」と仮説を立てて話す - 「人間の魅力は雑談に基づいている」。雑談を大事にすることは、相手を大事にすることとイコール **キーワード** - **ラポール**: お互いの心が通じ合い、穏やかな気持ちでリラックスして相手の言葉を受け入れられる関係性。雑談の第一の到達点 - **無条件の肯定的関心**: カール・ロジャースの概念。相手の話を良し悪しや好き嫌いで判断せず「なぜそう考えているのか」を肯定的に知ろうとする姿勢 - **empathy(エンパシー)**: 相手が何を考え、どう感じているかを想像する能力。共感より広く、隠れた意図の汲み取りと感情への同調まで含む - **ハイコンテクスト社会/ローコンテクスト社会**: コンテクストは空間的・時間的・社会的な「場面」「文脈」「背景」を含む心理学の概念。日本は察する文化、欧米は言葉で明示する文化 - **CtoC(Consumer to Consumer=個人対個人)**: ビジネスの雑談は BtoB(会社対会社)ではなく個人対個人の関係性である、という本書の主張。会社の看板や規模で押し切れない時代ほど雑談が重要になる - **exploration(探査)**: 相手が「どういう人で、何を大切にしているのか」を質問によって探ること。雑談の大切な目的のひとつ - **リベラルアーツ**: 日本語では「一般教養」だが、元来は人間を束縛するものから開放するための知識、生きるためのチカラを身につける手法。歴史・政治・アートなどを指し、世界の一流が雑談に求めるもの - **トランスナショナルな考え方**: 国別のコンセプト(日本=集団主義/ハイコンテクスト、オランダ・アメリカ=個人主義/ローコンテクストなど)を前提にしつつ、国と国の枠組みを超えて多面的なアングルでアプローチする視点。自国の歴史や伝統を知ることは自分のアイデンティティの一部 - **雑談で失う3つ**: 時間/ビジネスの可能性/レピュテーション(評判)