# 第8発 ライターになる ——誰にでもなれるが、なれないのはなぜか。
> 第3章「ライターの心得」の冒頭。
**中心主張**: 「どうしたらライターになれますか」という問いへの答えは常に同じ——「ライターになればいい」。記事を書いて、どこかの編集部に売り込む。それだけで、あなたはライターだ。なれない理由は才能ではなく、行商する覚悟がないこと。そして、ライターであり続ける条件は、世間を捨て、世間に惑わされず、感性を鍛え続けることである。
**実践指針**:
- ライターになりたいなら、名刺を作り肩書に「ライター」と入れ、記事を書いて編集部を訪ね歩け。近郊農家のおばちゃんが野菜を背負って東京へ行商に来るのと同じ「行商」をする。
- 社内で企画が通らない場面では、外に飛び出せ。企画が面白く取材が徹底していて文章がよければ、どこかで買われる。原稿料の多寡はあるが、熱意があって書いているものが面白ければ買われる。
- 「書きたい記事を書かせてもらえない」と泣き言を言うな。太宰もチェーホフもプルーストも行商していた。天才でない者は、なおさら書き続けるしかない。
- 批評されなくなること(黙殺)を恐れるな。世間に忘れられ冷笑されるくらいが常態であり、そこで書けなくなる者は「世間に捨てられた人」ではなく「世間を捨てられなかった人」だ。世捨て人とは、世間を捨てた人のことだ。
- 感性が鈍いと感じる場面では、世界のせいにせず「無理して、努力して、おもしろがる」。ライターにはそういうむちゃな思い込みが必要だ。
- 好きになれない対象を扱う場面でも、「好きになれとは言わない。しかし『ここが魅力なんだろうな』と了解できるところまでは、いける」。見て、聴いて、読んで、了解する。
- 世の中のすべての事象、おもしろい現象に対して「greedy(貪欲)」であれ。感性は鍛えられる。それは練習だ。
- 取材前は本を入念に読み込み、質問を精選して用意せよ。著者に「その本に書いてあることしか聞き出せない」なら失敗。書いてあるのだから、直接読め。
- 取材の現場では、突如現れた答えに対して二の矢、三の矢を放て。一回の取材で鉱脈に一回当たればそれで十分だ。
- 同じことを聞き直すときは、質問の表現を変えよ。同じ質問をただ繰り返すのは逆効果で、答えを聞いていない(時間稼ぎだ)と相手に感づかれる。
- 取材相手と「なれあう」な。「そうそう」「それ、分かる」と友達のようになってはいけない。取材対象とライターは友達じゃない。同意を求めるな。
- 質問は必ず疑問形で終えよ。平叙文になっていないか、最後にクエスチョンマークがつくかを確認する。日本語の質問の多くは疑問形になっていない。
**根拠となる事例・考え方**:
- アゴタ・クリストフ『文盲』の引用——「ものを書かなければならない。それから、ものを書き続けていかなければならない」「人はどのようにして作家になるか(略)自分の書いているものへの信念をけっして失うことなく、辛抱強く、執拗に書き続けることによってである」。亡命してフランス語を習得し、母国語でない言語で小説を書いた人物。クリストフの覚悟の前では、われわれの泣き言は甘えだ。
- 森鷗外「大発見」の引用と、鷗外の二足のわらじ(陸軍軍医と作家)。「彼は文壇を去った」「彼の時代は過ぎ去った」と勝手に死亡宣告され、黙殺されても書き続けた。鷗外でさえ「あいつも終わったね」と言われる。
- ブッダの「世界は美しい。人生は甘美だ」という言葉。世界がつまらないのは世界のせいではなく、自分の感性が鈍っているからだ、という論拠。
- 歌舞伎・長唄・常磐津・清元・浄瑠璃・能・落語といった伝統芸能の受容の非対称性。落語は好きなのに浪曲や講談は聞いたこともない人が多い——それは、おかしいことだ。
- 著者の書籍デビュー作『リアルロック』(三一書房)と、その後もっとも手強かった「ノイズミュージック」の体験。メロディーもリズムも和音もない様式に、それでも数人の客が熱心に食い入るように見つめている。「必ずなにかはあるのだ。いまだわたしの感性ではとらえられないだけなのだ」。
- 「なれあいは見ちゃいられない」——英語での取材経験から、日本語の質問が疑問形になっていないことに気づいた。世界を変えるのは問いだ。問いを作れる人がライターであり、答えではない。
**キーワード**:
- **行商**: ライターの本質的な仕事のかたち。記事を書いて売り込みに歩くこと。文豪も皆やっていた。
- **世間は捨てず、世間に惑わず**: 書き続ける者の姿勢。批評されず黙殺されても、石を投げ続ける。「石を投げる」=深い井戸に石を投げ込むように、音がしなくても書き続けること。
- **おもしろがる**: 無理をしてでも対象の魅力を了解しようとする態度。感性は鍛えられるという前提に立つ。
- **greedy**: 世界のあらゆる現象への貪欲さ。ライターの基礎的な感受性。
- **二の矢、三の矢**: 想定外の答え(鉱脈)が出たときに角度を変えて掘り下げる質問法。
- **質問力**: ライターの二つめの基礎トレーニング。入念な準備と、その先の一撃で構成される。