# 第6発 起承転結 ── 転を味方につければサバイブできる。
> **注記**:part1(50ページ)はこの発の途中、「転⑤ 脱臼」の解説の途中で終わっている。(part2に続く)
## 中心主張
ライターがまず覚えるべき型は起承転結である。型があってこその型破りであり、型を知らずに崩せば「形無し」になる。新聞・雑誌の記事は5W1Hを述べる「承」で終わっているものがほとんどだが、承で終わる記事に値段がつく時代は過ぎた。AIにも他のライターにも書けないのが「転」である。**転を書けるとは、換言すれば〈考えることができる〉ということ**であり、自分の転は自分しか書けない。そこが最大のポイントである。
## 実践指針
- **型を破りたい場面では**、先に型を覚えよ。型破りは斬新でオリジナルな表現だが、「形無し」は本来の姿をそこない味をだめにすること。**型があってこその型破り**。
- **起を書く場面では**、起をフックとして扱え。第1発(三行で撃つ)がそのまま起の解説である。まず目に留めてもらわなければ次はない。
- **承を書く場面では**、5W1H(when, where, who, what, why, how)を簡潔に説明せよ。だれが、いつ、どこで、なにをしたか。時、場所、登場人物、出来事の概要。ここに余計な感想はいらない。
- **承で書き終えそうになったら**、止まれ。そこがジャーナリズムの限界であり、いまや値段のつかない領域である。**必ず転まで書け**。
- **転を書く場面では**、二方向のどちらかを選べ。①**読者を転がす**——起で書き起こし承で説明した事象を、自分はどう見ているかを書き、読者の常識を覆す。②**自分が転がる**——飛び抜けた語彙、破綻した文章、なんでもいいから芸を見せる。
- **転のやり方に迷ったら、五パターンで考えよ**:**①古今 ②東西 ③逆張り ④順張り ⑤脱臼**。初級・中級者はこれを知っていれば十分。
- **【転①古今】時間軸を長くとれ**。できうる限り過去にさかのぼる。明治・大正はもちろん、平安、飛鳥、文献が残っている最古のところまで渉猟するつもりで調べる。
- **【転②東西】空間軸を広げよ**。日本以外はどうなのかを調べる。文化の受容に絶対はないと示すだけでいい。
- **【転③逆張り】世論の逆に賭けよ**。ただし逆を言うだけでは浅い。逆方向に問題を設定し直して、より大きな構造まで転がす。
- **【転④順張り】世論と同じことをすなおに主張せよ**。ただしこれは逆張りよりよほど高度で、**アイロニーがなければ書けない**。世論の「本音」にいったん「その通り」と同意し、そのまま度を越して進めていく。
- **「言うまでもなく」と書きそうになったら、書くな**。言うまでもないことなら、言うことはない。反論の余地のない命題(民主主義は大切だ、平和はかけがえのないものだ、差別は許されない)は真ではあっても弱く、読み手に響かず、あくびされる。
- **【転⑤脱臼】話の筋を変え、関係ない話を始めよ**。「膝カックン」の要領。ただし**脱線と思われないために必要なのがユーモアである**。
- **①②の調べ物では全集を道具にせよ**。柳田国男、南方熊楠、折口信夫の三巨人の全集は必携。岩波書店版の漱石全集も必須、余裕があれば明治文学全集(筑摩書房)にも当たる。全集の特徴は**事項索引の充実**にある。
- **人に教える機会があれば、引き受けよ**。自分ができるプレーを他者に説明するのは難しいが、**言語化することによって自分の理解が深まり、技の切れ味が鋭くなる**。
## 根拠となる事例・考え方
- 六代目三遊亭円生の落語「淀五郎」と「中村仲蔵」(歌舞伎役者の噺)は、ほとんどライター心得である。**淀五郎は形無し**——才能はあるが後ろ盾のない役者で、偶然主役級に抜擢されてうれしさに浮かれ、稽古をおろそかにし「形」を覚えていない。**中村仲蔵は型破り**——若いころ暇さえあれば先輩たちの芸を見て、真似して、盗んで、さらにそこにない新味を加えて型を破っていった。だから生まれはよくないのに天下の名人になれた。
- 起承転結は漢詩の作法。「〈起〉で詩意を言い起こし、『承』でそれを受け、『転』で変化を与えて発展させ、『結』で全体を締めくくる」(『明鏡国語辞典』)。
- ジャーナル(journal)とはもともと日記、日報という意味。5W1Hが入っていればいい、事実だけを淡々と述べる——それがジャーナリズムであり、だから新聞や雑誌は長い企画記事でも承で終わる。転の練習をしていないのだから仕方がない側面もある。
- AI時代の議論:スポーツの試合の戦評などはスコアブックからAIが見事に書きこなし、人間と違って間違えもしない。しかしAIには転が書けない。他のライターにも書けない。
- 長嶋茂雄の教え方「スーッと来た球をガーンと打つ」は天才だからこそ成立する。凡人は「スーッと来る」「ガーンと打つ」を分解し、伝達可能な言語にしなければならない。著者が他社の記者やカメラマンにタダで教えているのも、人に教えると自分が学ぶからであり、本書もその意味で書かれている。
- **転①古今の実例**:「若者がレジャーに海水浴をしなくなった」というテーマ。日焼け、べとつき、フナムシ、ヤンキー、少子化——ここまでならAIで書ける記事。そこで「海水浴」という言葉はいつ生まれたのか、日本で最初に海で泳いだ人はだれか、最初の海水浴場はどこかを調べる。海水浴は江戸時代までは民衆の習慣になく、明治期に居留外国人と日本の上流階層のあいだで広まった。最初に泳いだのは西洋人の医者で、健康療法として推奨した。漱石『こころ』で主人公と先生が出会うのは鎌倉の海水浴場であり、その情景だけで先生の社会階層と知的レベルが推察される。「日本人のレジャー史を考える」という構えをとれば、コラムは多少カラフルになる。
- **転②東西の実例**:橋下徹元大阪市長が市職員に入れ墨・タトゥーの有無を回答義務つきで調査しようとした件。たいていの新聞はプライバシー侵害との関係に焦点を当てたが、後続ライターは転がさなければならない。日本以外はどうなのかを調べると、日本から彫り師をわざわざ呼び寄せて彫らせたヨーロッパの王族もいた。「公務員の入れ墨は許容される」と主張するのではなく、文化の受容に絶対はないと示すだけでいい。**ライターでもミュージシャンでも画家でも役者でも、およそ表現者の役割で「世間に揺さぶりをかける」ということ以上のものは、ない**。
- **転③逆張りの実例**:芸能人の薬物・不倫の発覚で芸人生命が絶たれる問題。擁護したいのではなく、なぜこれだけバッシングが起きるのかを逆方向に設定する。過去には勝新太郎のように逮捕後もふつうにテレビCMに出ていた人さえいた。「大物だから」では面白くない。**世間が変わったのではないか**——芸を売って魔界に生きる芸人はもはやいない、明るい照明の下でコメントし通販番組で商品を薦める無害無毒な「有名人」がいるだけだ。その有名性を支える現代社会の特質は、末期的に発展した資本主義と、インターネットのコピー文化である(2019年5月14日付朝日新聞「倫理に縛られ、消えゆく芸人」)。
- **転④順張りの実例**:2019年夏の参院選は著しく盛り上がりに欠けた。著者が書いた順張りは「選挙に無関心で、なにが悪いの?」。自分ひとりが投票しても大勢は変わらない、なにより面倒くさい——そうした世論の本音にいったん同意する。どうせ〈無意味〉な選挙なら、いっそ〈無作為〉に、くじ引きで議員を選んだらどうか。古今東西にそうした例はなかったのか。選挙なんてなくせばいい。そうすると民主主義もなくなるのか(2019年7月17日付朝日新聞『選挙は無意味』)。
- **転⑤脱臼の実例**:アニメ「巨人の星」の主題歌「思い込んだら試練の道を」を「重いコンダラ試練の道を」と聞き間違えていた人が多数いるという話。有名な聞き間違いはほかにもある(「赤い靴はいてた女の子、ひいじいさんに連れられて行っちゃった」「うさぎおいしいかの山」「青も白い虫の声」)。ふつうなら作詞者に話を聞いたり当時のスポ根アニメブームについて書くところを、転に至ってどんどん脱線し、人はなぜ聞き間違うのか、日本人の聞き間違いに共通項はないかを精神医学者や言語学者に大まじめに取材した。反響はほぼすべて「大笑いした」という声だった(2016年11月5日付朝日新聞「重いコンダラ試練の道」)。
## キーワード
- **型破りと形無し**:型破りは前例を踏襲しない斬新な表現。形無しは本来の姿をそこない味をだめにすること。型があってこその型破り。
- **転の五パターン**:①古今(時間軸を長くとる)②東西(空間軸を広げる)③逆張り(世論の逆)④順張り(世論と同じ+アイロニー)⑤脱臼(膝カックン=話の筋を変える)。
- **転=考えること**:「転を書けるとは、換言すれば、〈考えることができる〉ということ」。AIにも他人にも書けない、自分だけの領域。
- **結はおのずから浮かぶ**:うまく転がることさえできれば、結論は自動的に書ける。指が勝手に動く。
- **深く掘るには広く掘る**:「深い穴を掘るには、直径を大きくしなければならない。深く掘るには、広く掘るしか、方法はないのだ」。全集を渉猟する理由。
- **答えは書いていない**:全集を調べても答えが書いてあるわけではない。「自分がどう考えるべきか、転がすべきか、その方向性の萌芽が見つかる」だけである。
- **ソクラテスのアイロニー**:順張りに必須。自分が無知者として質問していく。世間をソフィスト(教師)に見立て、「あなたの言うことが真実でしょうね。そのお考えをさらに進めると、こういうことになりませんか」と問いを重ねる。「度を越してやり過ぎ、笑いを取る」芸と同位同相。
- **ユーモア**:脱臼を「脱線」と思わせないために必要なもの。
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**(part2に続く)** — 第6発「転⑤ 脱臼」の解説途中で分冊が終了。part2は脱臼におけるユーモアの役割の続きから始まる。